初心者だけど地方競馬をプレゼンさせて下さい〔後編〕

さて、初心者が地方競馬の魅力を紹介する短期連載も、後編となりました。
前編では各地方競馬場の特色、多様な馬券について述べました。これらの環境に、女性騎手招待をはじめとする地方間での交流・騎手招待レースや、好きなレース名をつけられる個人協賛などの企画も加わり、日々、地方競馬は魅力を増しています。

では、なぜ地方競馬は独自路線を推し進めたのでしょうか?

それはひとえに「お客様に足を運んでもらうため」の努力でしょう。JRAとは一線を画す魅力でもって、地方競馬はファンを惹きつけなければならなかったのです。

オグリッキャップの登場による第二次競馬ブームが去った、そのあと。バブル崩壊の景気低迷もあり、JRAの売り上げは著しく落ちました。
JRAですら低迷したのですから、地方競馬における不景気の影響は計り知れません。1990年代から2010年代の間に多くの地方競馬場が閉鎖されました。

地方競馬が、地元から無くなる。
それはただ単に、「娯楽が失われた」だけでは済まない問題です。競馬場を中心とした商店や施設も経営危機に陥り、また、競馬場で働く人々は失業の恐れに直面し、競走馬たちも行き場を失いました。

地方競馬場は競走馬の在籍状況に合わせ、それぞれの基準で競走馬のランク付けをし、独自のレース体系で競馬を開催しています。
賞金の安い地方競馬には、比較的低い値で取引される馬が集まります。また、JRA主催の中央競馬は大きなレースが芝に集中するのに対し、地方競馬は深い砂・小回りコースと条件が異なります。そこで勝つには、中央とは違う適性も必要となります。

つまり中央ではあまり目立たない血統の馬でも、地方競馬では活躍の場を得られる可能性があるのです。
それが結果的に地方競馬の面白さに繋がり、ひいては競走馬生産において、いわゆる「流行血統」に偏らないような、血統のバラエティを保つ意味でも大きな役割を果たしています。
いわば、競馬界を下支えしている地方競馬。地方競馬場の存続は、競馬界全体の「生命線」と言っても過言ではありません。
今もなお、地方競馬場は生き残りをかけ、特色ある企画を打ち出しながら不況と戦っています。
現在、後述する交流重賞やインターネット投票の導入も手助けとなり、売り上げは一時の危機的状況から僅かに持ち直しています。ですが、まだまだ多くのファンを地方競馬は必要としているのも確かです。

一方、こうして地方競馬が努力するのと並行し、JRAも競馬先進国の一員として、ダートレースを整備する必要に迫られていました。
そして地方・中央の垣根を超え、全国の優れたダート馬がその実力を発揮する機会の整備に着手する事となりました。
その実現の一歩として、1995年、地方・中央の相互交流による指定交流競走が実施されます。(交流競走自体は1973年より設けられていましたが、その数はごく僅かで、本腰を入れ始めたのが「交流元年」と呼ばれる1995年となります)
翌1996年からは「ダート競走格付け委員会」が設置され、1997年より全国を対象としたダート重賞レースの体系化、格付けが始まります。
各地で交流重賞が行われ、JRA・地方競馬それぞれの名馬たちがしのぎを削り名勝負を繰り広げました。地方競馬ファンは鳴り物入りで参戦する中央馬の迫力を目にしながら、負けずの実力を持つおらが街の怪物に声援を送る。
また、地元の出走馬を応援するため、中央競馬場に出向くこともあるでしょう。メイセイオペラやアブクマポーロ、ライデンリーダー、フリオーソ、コスモバルク。ドラマティックな地方出身の名馬たちが、各地で輝きを放ちました。
もちろん騎手や厩舎も全国を視野に入れ、切磋琢磨します。競走馬だけではない、人同士の交流も始まったことで、交流競走は競馬界全体の盛り上がりに不可欠なものとなりました。
それを象徴するのが2001年にスタートした「JBC(ジャパンブリーダーズカップ)」。
2000mのクラシック、1200mのスプリント、1800mの牝馬限定レディスクラシック。以上の3レースでもって優秀なダート資質馬を選り抜き、今後の生産馬の能力向上に繋げる……その理念は、競馬のプレイヤーのみならず生産者視点に基づいています。
毎年、持ち回りで開催競馬場が変わるのも、地方競馬の活性化に一役買うことでしょう。(今年は川崎競馬場での開催です!)

ダート界のオールスター戦ですから、集客増加に影響があるのは言わずもがな。中央競馬ファンが地方競馬を知るきっかけとしても、交流重賞の果たす役割は大きいのです。
その後、いわゆる「G」「Jpn」といった世界基準のレース格付けを行う「日本グレード格付け管理委員会」が設置され、2009年より同委員会による格付けが始まっています。
今後も地方・中央ががっしりと手を握ることで、ファンも大満足の高レベルレースが繰り広げられ、ダート競馬がいっそう発展することでしょう。

以上、後編は前編にくらべ堅苦しい話になりましたが、お話はここまで。
結局のところ競馬初心者マンとしては、「ただひたすら地方競馬を楽しむ!」──これに尽きます。
ある日はナイター競馬でビール片手に馬券を買い、B級グルメで腹を満たす。またある日は、交流重賞のパドックで地元の馬や騎手の横断幕を貼り、全国放映されるであろう彼らの雄姿を親族気分で見つめる。
ちょっとした夏祭り感覚で、けれど馬券はしっかりと買い、存分に地方競馬を味わいたいと思います。

この夏、地方競馬未経験の皆様も、お近くの競馬場まで足を運んでみてはいかがですか?
どこか懐かしくてあったかい、だけど勝負にはシビアな鉄火場があなたを待ってますよ……!

(参考:地方競馬情報サイト「KEIBA.GO.JP」)

写真:ぺろにゃん

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