誰よりも強く、美しく~7週連続G1第1戦 エリザベス女王杯~

いつの時代にも戦う男たちがいたように、女たちも戦ってきた。

それは人間社会だけでなく、競馬の世界にも言えることだ。

 

今週末に開催される3歳以上牝馬限定G1、エリザベス女王杯。

勢いをつける若い3歳牝馬と、花も実もある古馬牝馬がぶつかり合う、女の戦いだ。

このエリザベス女王杯は、レース条件を変えながらではあるが、1976年から続いている歴史の長いレースだ。

前身であるビクトリアカップまで含めると、1970年創設という、40年以上の歴史を持つ。

エリザベス女王来日記念に創設された同レースのすべては、その名が物語っているようにも感じられる。

「女王」という響きは、最強牝馬にこそふさわしい称号ではないだろうか。

 

そんな秋の女王決定戦だが、現在の条件に至る前のことをご存知だろうか。

桜花賞、優駿牝馬(オークス)とクラシック競走の後、牝馬三冠の最終戦として位置づけられていたこと。

牝馬三冠なのでもちろん3歳牝馬限定(当時の馬齢で言うと4歳牝馬限定。以降、現在の馬齢表記とさせていただく)で、京都の芝2400メートルで行われていたこと。

1996年に牝馬競走体系が見直された際に秋華賞が新設され、エリザベス女王杯は牝馬三冠最終戦のその座を秋華賞へ譲る形となったこと。

競馬をはじめたばかりの人には驚きの事実かもしれないし、長い競馬ファン歴をお持ちの方にとっては「そういえばそうだったなあ」と懐かしく思い出すことかもしれない。

20年という月日は、現在の3歳牝馬と古馬牝馬が集結する合流地点といった位置づけを「新しい」ものから「当たり前」のことへと変えてきた。

こんな所でも、競馬と共に生きてきた、生きていく喜びを噛みしめることが出来る。

それは、実はとても幸せなことなのではないだろうか、と思うのだ。

そんな風にエリザベス女王杯が生まれ変わる前の昔話を、ひとつ。

 

1994年、まだエリザベス女王杯が3歳牝馬限定だった頃。

2歳時からその豪胆なレースぶりが評価されており、阪神3歳牝馬ステークス(現・阪神ジュベナイルフィリーズ)も当時のレコードタイムで優勝した牝馬がいた。

アメリカ生まれ日本育ちの彼女の名は、ヒシアマゾン。

彼女は圧倒的な強さを誇りながらも、外国産馬であったためにクラシックには出走することが出来なかった。

そのため裏街道に進んだが、そこでも能力の高さは失われることなく、連対を外さない安定の強さを見せつけ続けた。

特に、驚異の追い込みと言われているクリスタルカップでの、残り1ハロンからの伸びは尋常ではない。

前を走る馬とは4馬身ほどの差があったというのに、ゴール板を過ぎる頃には逆に1馬身先着していた。

そのレースはまさに圧巻だ。

何度でも繰り返して見たい。

見て、狐につままれたような思いになり、凄すぎて最後には笑いがこみ上げてくる。

後世にまで伝えていきたい名レースだと、わたしは思っている。

 

そしてクイーンステークスとローズステークスを快勝し、いよいよエリザベス女王杯を迎えた。

クラシック戦線を戦ってきた内国産牝馬たちと合流しての一戦だ。

ヒシアマゾンはなんと1.8倍の1番人気と、圧倒的な支持を得た。

オークス馬のチョウカイキャロルは2番人気だった。

そして、最後の直線を迎えた時、この2頭が意地を見せ合う。

お互い一歩も引かない激しい叩き合いには、「これぞ競馬の醍醐味!」と思わず叫びたくなった。

どっちだ、どっちだ?!

爽快さすら感じられるほどにハラハラドキドキの大接戦を制したのは、ヒシアマゾン。

チョウカイキャロルにハナ差、競り勝ったのだ。

ヒシアマゾンはこれで重賞6連勝となり、続いて出走した有馬記念でも2着と善戦。

見事、その年の最優秀4歳牝馬に選出された。

その翌年、オールカマー、京都大賞典を連勝し、海外からの強豪や国内の牡馬たちと戦ったジャパンカップでも、日本馬最先着の2着と奮闘。

そして、1996年。

前述のとおり、古馬牝馬も出走出来るようになったエリザベス女王杯に再度挑戦。

結果は2位入線、斜行により7着降着だったが、異なる条件の同じレースに出走したという珍しい経験をした1頭となった。

 

ヒシアマゾンはその強さもそうだが、外見の美しさも目を見張るものがあった。

漆黒の馬体が、躍動する。

その気高さ、美しさに息を呑む。

わたしに競走馬の美しさを教えてくれた。

そのうちの1頭は確かにヒシアマゾンだった。

 

そして、ヒシアマゾンと同じ黒鹿毛の毛色を持つ馬が、昨年のエリザベス女王杯勝ち馬であるマリアライトだ。

今年の宝塚記念でも勝利を収め、その強さが牝馬限定の枠を超えたものであることを証明した。

マリアライトもまた、ヒシアマゾンのように牡馬牝馬の垣根を越えた活躍をみせてくれる1頭かもしれない。

さあ、そして今年の女の決戦は今週末開催される。

今年の女王の座には、一体誰が座ることになるのだろうか。

連覇を狙う現女王のマリアライトか。

それとも、昨年の二冠馬ミッキークイーンや秋華賞2着馬のパールコードをはじめとする乙女たちなのか。

誰よりも強く、美しい1頭を決める戦いが、今、はじまる。

文・笠原小百合

写真・ウマフリ写真班