有馬記念の応援馬券

 競馬ファンにとって有馬記念というレースは、やはり特別で、『この1年間の総決算』という視点で馬券を購入している人も多いのではないだろうか。最後だからこそ夢を見たい、終わりよければすべてよし、来年に繋がるきっかけを作りたい、負けを取り戻したい……。僕らは小さな紙切れに、様々な思いを込めている。

 

 僕は普段、馬券は本命馬と穴馬の単複を購入している。「複勝でもいいからとりあえず当てたい」と「馬券の種類で悩みたくない」という両面での逡巡を繰り返した結果、この買い方に辿り着いた。

 ただし、『有馬記念』の場合だと、そこにもう1種類増える。本命馬でも穴馬でもない、「自分が今、最も賭けたい馬」に対する応援馬券である。

 それは一体どういうものなのか? 一昨年と昨年を例に振り返ってみたい。

 

 

<2014年の場合>

本命:ゴールドシップ

穴馬;ラストインパクト

賭けたい馬:ウインバリアシオン

 一昨年の場合、それはウインバリアシオンだった。クラシック時はオルフェーヴルの影を追いかけ続け、古馬になってからは度重なる負傷に泣かされた悲運の競走馬。そんな彼の物語に心動かされたことが、儲けを度外視した馬券を買うキッカケになったのである。

 

 

<2015年の場合>

本命:ゴールドシップ

穴馬:ゴールドアクター

賭けたい馬:トーセンレーヴ

 そして、昨年。最後に勝つならば中山の2500メートルだろうと踏んでいた本命、前走のタフなレースを勝ちきった穴馬はすんなり決まった。悩みがちな自分としては珍しい早さだった。

 

 問題は第3の馬である。これを決めるのが難儀だった。

 気になる馬はいた。「トーセンレーヴとボウマン騎手に注目!」。不思議と熱が籠った記事を目にした瞬間から、なぜか頭の中をグルグルとその馬名と騎手が連呼されていた。

 競争成績を確認する。確かに頭打ちだったここ数年が嘘のように、ボウマン騎手に替わってからオープン特別を連勝している。やっぱり気になる。とは言え、実際に買うのは少々考えものである。何のためにこの馬に賭けるのか? もうひと押しが欲しい……。そのひと押しが見つからず、悩みは深まるばかりだった。

 

 

 レース当日、僕は行きつけの自習室で勉強をしていた。会社から与えられた通信教育の課題にようやく目処が立ち、ほっと一息つくところだった。これが終わったら、僕は馬券を求めて最寄りのウインズに足を運ぶのだ。

 ラウンジに向かい、紙コップにコーヒーを注ぐ。そんな時、掲示板に貼ってあったある文言に思わず惹かれてしまった。

 

「3年後の自分にメッセージを残しませんか?」

 

 自習室のスタッフ曰く、自分への中期的なメッセージや達成したい目標をカードに記し、それをスタッフに預ける。そして、タイムカプセルと同じ要領で3年後に参加者にお返しする。そんな企画だった。

 

 3年後にどうなっていたいか……。

 2015年も色々な目標や野望が僕にあった。しかし、達成できたという満足感はあまりなかった。むしろ、惰性で全てが流されていく感覚しか残っていなかった。

 

 仕事や私生活での目標を書いてみる。書いてはみたが、キレイな目標だけでは物足りなさを感じた。

 この年の、いや、今までの自分に、一番足りなかったものはなんだったのだろうか。

 足りないものを突き破るには、何が必要なのだろうか。

 

 赤色のペンを握ったまま、目標が記されたカードを見つめていた。

 ある言葉が閃いた。カードを裏返し、思い切って書き殴る。

 そういうことなのかもしれない。僕はカードを封に入れて、スタッフにそっと渡した。

 

 

 さて、肝心のレースはゴールドアクターが見事混戦を制し、GⅠ初勝利を挙げた。一方、ゴールドシップは捲りで会場を盛り上げたが、直線で失速し8着のラストランとなった。

 馬券は当たった。ゴールドシップも無事だった。でも、そういうこと以上に、膨れ上がった気持ちがある。最後の直線で、トーセンレーヴがよりスムーズに走れるスペースがあったならば……。

 

 

 2016年もそろそろ終わろうとしている。有馬記念の出走も刻一刻と近づいてきている。僕にとって、今年は「色々あった」年だった。マラソン完走や小説の執筆など、新しく挑戦して成功したこともあれば、ここでは言えないような(!)痛手を負って悔しい思いをしたこともある。成否の割合は半々くらいだろうか。

 色々あったとは言え、何かに思いっきり賭けて実行したからこその納得感は間違いなくある。だから、今までとは違う1年を過ごせたと自負している。

 

 そして、「恐れずに賭ける」姿勢をもうしばらく抱き続けたいと思っている。2年後、あのカードの裏側に記した「◎トーセンレーヴ」の文字を、僕は胸を張って見なければならないのだから。

文・和良拓馬

写真・和良拓馬、ウマフリ写真班

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