ストレイトガール~ひたむきに、明るく~

2015年5月17日。

この日行われたG1ヴィクトリアマイルで、競馬ファンにとって非常に衝撃的なレースがあったのを覚えているだろうか。

三連勝単式が2070万5810円という普段の競馬では考えられない配当が出たのだ。その波乱のレースで勝った馬が、今回の主役であるストレイトガールだ。

 

父は朝日杯勝ち馬で無敗のままクラシックを断念し引退したフジキセキ、母の父はジャックルマロワ賞勝ち馬タイキシャトルという、主に1200mから1600mを得意とする短距離マイル一家だ。

G1は3勝、その勝ち方はマイルやスプリントのレースでは常識外れとも思わせるレースぶりを披露した。

牝馬でありながら、牡馬とも互角に渡り合えた馬は少ない。今回はストレイトガールの成績を振り返り、繁殖牝馬としての期待も述べたい。


惜敗続きにピリオドがまさかの大波乱

ストレイトガールは2011年の8月にデビューするが、2戦目で初勝利をあげてから翌年の6月に条件戦を勝つまでは全くと言っていい程歯が立たないレースが続いた。ようやく本来の歯車が合い始めたのはそれから1年後、2013年6月の事である。そして500万を函館で圧勝してからは4連勝を決め、オープン勝ちを達成する。キーンランドCでは惜しくもフォーエバーマークの2着に敗れるが、シルクロードSではレディオブオペラ以下を子供扱いして圧勝し、重賞ウィナーとなった。

その後はG1戦線に名乗りを上げるが、高松宮記念、ヴィクトリアマイル、スプリンターズS、香港スプリントでは惜敗続きであった。

迎えた2015年5月17日のヴィクトリアマイル。運命の日を迎える。

ストレイトガールはこの年初戦の高松宮記念で13着と大敗を喫していた。この時、既に6歳牝馬となっていたストレイトガールに向けられた評価は

「これはもう終わった」

「去年と同じ展開だったのにこんなに落ちぶれたのか」

と、最早世代交代の波に飲まれているというものが多かったのである。

そんな中で挑むヴィクトリアマイルも、評価は決して高いものではなかった。

ヌーヴォレコルト、ディアデラマドレ、レッドリヴェール、カフェブリリアントなどの新興勢力に押されて、オッズは単勝5番人気だった。

レースがスタートすると、大外枠から江田照男騎手のアクションに応えてミナレットがハナを主張し大逃げを図る。続いてこの年の京都牝馬S勝ち馬であるケイアイエレガントと2014年セントウルS勝ち馬リトルゲルダが二番手集団を形成し、後は縦長の展開となった。ストレイトガールは集団の前目に位置をつけたが、その前後には上位人気4頭がピタリとマークしており、勝つのはあまりにも絶望的と思われた。

大逃げを打ったミナレットの1000m通過タイムは56秒9。

「これは玉砕逃げだ」

ファンのみならず、レースに乗っている騎手ですらそう感じたのではないか。

しかし、ストレイトガールにとっては絶好の展開だった。

なぜなら、1年前のシルクロードSで勝った時、瞬発力勝負だったにも関わらず好タイムを叩き出していたからである。そして、その時の京都は高速馬場だったが、今回の東京も同じ高速馬場だったのだ。

G1で惜敗続きだったのはどれも速いラップに恵まれなかったもので、天から降りてきた願ってもない展開だった。

「勝つならここしかない」

……そんな気持ちで迎えたかどうかはさておき、最後の直線では逃げるミナレットが少しずつ失速していく。

しかし、そうは言っても高速馬場でなかなか前は止まらない。残り200mを切ってもミナレットがまだ先頭だ。

「おいマジかよ」

「1円も買ってないぞ……」

周囲がざわつく。

なぜならミナレットはシンガリ人気だ。このレースの三連単を買っていたほとんどの競馬ファンは、この時点でハズレを確信していた。

そう、たった1票を除いては……

残り100m。

二番手で折り合っていたケイアイエレガントが逃げるミナレットを並ぶ間も無く先頭に立つ。その後ろにはストレイトガールが更に追い込んでくる。しかしこの時点でケイアイエレガントとの差は2馬身。普通の馬なら届くのか微妙な差であった。

だがストレイトガールはここで遅咲きの才能が開花。

押し切りを図るケイアイエレガントに、それまで見せたことのなかった驚愕の末脚を見せつけゴール寸前アタマ差捉えた。

史上空前の大波乱決着により世間から更なる注目を浴びたヴィクトリアマイルは、ストレイトガール悲願のG1制覇により幕を閉じた。

しかし、この勝利からストレイトガール劇場の幕開けが始まるとは、当時誰が想像したのだろうか。

世界にも通用した圧巻の末脚

ストレイトガールの強さは秋のスプリンターズSになっても衰え知らずだった。

前哨戦であるセントウルSはあくまで叩き台の仕上げで4着。

ヴィクトリアマイルの大波乱決着に対する評価はフロック視されており、スプリント戦線は混沌とした状態とされていた。

「誰が勝っても驚かない」

これは後のストレイトガールによって覆されることになる。

セントウルS組からはストレイトガールの他に勝ち馬のアクティブミノルやウリウリ、ハクサンムーン、リトルゲルダが出ており、北九州記念組からはベルカント、キーンランドC組からはウキヨノカゼとティーハーフなど、混沌とした中でのレースだった。

そしてレースがスタート。

ベルカントがロケットスタートを切り、アクティブミノルとハクサンムーンが続く。このままベルカントがペースを握るかと思いきや、ハクサンムーンが強引にハナを奪いペースを落とした。

前半3ハロンは34秒1。

スプリント戦にしては、遅すぎる。ストレイトガールはこの時中団だったが抜け出すのが困難な位置にいた。

迎えた最後の直線勝負。逃げた3頭を馬群が飲み込んでいく中、1頭だけ異次元の瞬発力を持ち、馬群を突き抜けた馬がいた。

ストレイトガールだった。

戸崎騎手のアクションに応え、馬群の間を縫うように突き抜け圧巻のG1、2勝目のゴールへ。

まさに絶対王者誕生。そう思わせるに相応しい遅咲きの春秋制覇であった。

その原動力は、これまで香港で培ったレースによるものだったのかもしれない。

急遽の現役続行、圧巻の有終の美

本来、ラストランと位置づけていた次の香港スプリントではいい所無しの9着で終わってしまった。

不完全燃焼で現役を終えるかと思われた矢先、翌年の春になってストレイトガールは急遽現役続行を表明し、阪神牝馬Sからヴィクトリアマイル連覇を目論む事になった。

これには多くの競馬関係者やファンも驚いた事だろう。私自身も驚きを隠せなかったのだ。

阪神牝馬Sはあくまで叩きで9着と終わったが、この結果に多くの競馬ファンはまたストレイトガールの評価を落としたのである。

4歳世代のルージュバック、二冠牝馬ミッキークイーン等の新興勢力が前哨戦から勢いを見せており、最早世代交代をするのにも時間の問題とされていた。

ストレイトガール自身、G1に出走した中で最もオッズが売れていなかった。

しかしそれとは裏腹に、まさに前年のデジャヴだと期待をかけるファンも少なくなかった。

レースでは阪神JF馬レッドリヴェールがハナを切り、阪神牝馬S勝ち馬スマートレイアーやダービー卿CT勝ち馬マジックタイムなどが先行集団を形成。

ストレイトガールは中団の内で脚を溜めていた。

1000m通過タイムは57秒2とハイペースだった。

しかし流れは完全に、ストレイトガールのモノとなっていたのである。

最後の直線。

府中の長い直線で先行集団の空いた内を付いたストレイトガールは一気に加速。

その差を1馬身、2馬身とリードを広げていく。

前年ジャパンカップ勝ち馬ショウナンパンドラや二冠牝馬ミッキークイーンが追いすがるが、差が全く縮まらない。

寧ろ、更に突き放して見せたのだ。

こんなとんでもない牝馬はもう2度と現れないだろう。

そう思わせるに相応しい圧巻のラストランだった。

レースタイムは1分31秒5。

これは前年の年度代表馬モーリスが最初に勝ったG1安田記念より0秒5速いタイムである。

 

まさに日本を代表する名牝の誕生だった。

フジキセキの血統にかけられる大きな期待

このヴィクトリアマイル連覇により、ストレイトガールは正式に現役引退を表明。

次世代への期待が高まっていた。

現在、ストレイトガールはイギリスにて繁殖馬となっている。

初年度産駒の配合種牡馬は、生涯全勝で引退したイギリスの世界最強馬フランケル。

フランケル産駒は阪神JFの勝ち馬で来る4月9日桜花賞の最有力候補となっているソウルスターリングが日本の初年度産駒代表であるが、今後日本におけるフランケル産駒の台頭は著しいものになるだろう。

そうなってくるとストレイトガールにかける期待は大きい。

その後は北アメリカ三冠馬アメリカンファラオと配合するためにアメリカへ渡航するプランもあるため、日本の種牡馬との交配はまだ先だが、私として期待を最もかけたい配合を述べようと思っている。

キングカメハメハとモーリスとの交配である。

キングカメハメハの場合は特にクラシックを目指す配合にはピッタリだろう。

ストレイトガールとキングカメハメハのお互いが持つスピードにより、破天荒なタイムを出す産駒を生み出して欲しいものだ。

モーリスの場合は主にマイラーの血統を確立出来るのではという期待がある。

共にマイラーとして世界レベルの活躍を見せている事、そして合わせて9冠馬の配合になる点に注目が集まっている。

そして何より、フジキセキの血が更に唸りを上げるに違いない。

 

ストレイトガールの牝系により、フジキセキの血が世界中に広がりを見せてくれること、そして日本の血統が世界レベルで常に活躍出来ることを祈り、本稿を終える。

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文・KOBA
写真・ラクト、ヒロ