日本ダービー、懐かしの2着馬たち。

ダービーでスポットが当たるのは、勿論ダービー馬。
しかし2着馬にもドラマはあります。
今回はそんな「懐かしのダービー2着馬」をご紹介致します。

■繊細な優等生は《本物》だった

ノーザンテースト以来の大旋風を巻き起こすことになる、名種牡馬・サンデーサイレンス。
その名種牡馬は、第1世代からロケットスタートを決めた。
フジキセキを筆頭にタヤスツヨシやダンスパートナーと、いきなりクラシック路線を沸かせることになる。そしてもう1頭忘れてはならない馬がいる。

ジェニュイン。

馬名は、松山調教師が長年あたためていた《本物》という意味を持つ。
この年のクラシック路線は、朝日杯を勝ったフジキセキを中心に回ると思われていた。しかし弥生賞後に怪我で離脱。朝日杯2着馬のスキーキャプテンはアメリカ遠征中。
中心馬不在、と囁かれていた。
ジェニュインは名手・岡部騎手も絶賛していた素質馬だったが、500万下を勝利したのは年が明けて1月末。
有力馬からは少し遅れてのオープン入りだった。
そこから若葉Sに出走し、1着馬降着の繰り上がり1着で、クラシックへの切符を手に入れることになる。 
運も実力の内という言葉もある。
しかし彼が《本物》だと評価される事になったのが皐月賞だ。

前述の通り、フジキセキは弥生賞を最後にターフを去っていた。スプリングS勝ち馬のナリタキングオーの不在もあり本命馬不在と言われる中、3番人気だった青鹿毛が輝いた。白いシャドーロールにピンクのバンテージを付けたジェニュインは、逃げるマイネルブリッジを前に見ながら先行押し切りという横綱競馬を披露。ライバルのタヤスツヨシの猛追を振り切って、久々の関東馬の皐月賞勝利を手にした。
そして大一番、日本ダービー。
距離延長や脚質が嫌われてか、当日は2番人気に甘んじる。1番人気はライバルのタヤスツヨシ。
何の因果関係か、ライバル同士で仲良く同じ7枠のオレンジの帽子となった。
レースは出遅れもなく、マイティフォースがペースを握る。ジェニュインはちょっと行きたがる素ぶりが見えるものの、掛かることもなく淡々と先行集団勢の中追走して行く。
一方ライバルのタヤスツヨシは外めを回りながら先行勢を見ながら脚を溜めていた。
向こう正面3コーナー手前からオースミベスト外から来るのを見計らったかのように、ジェニュインは日本一を狙いに進出を開始した。
馬場の真ん中を、18頭の優駿を引き連れて走る。 内から来たシグナルライトとの叩き合い──が、抜かせない。
……だったのだが、外から内に刺さりながら鬼脚で飛んでくるライバルのタヤスツヨシがいた。
ジェニュインは並ぶ間も無く差されてしまう。
そこから驚異の勝負根性で他馬をねじ伏せ、2着を確保した。
皐月賞のスマートな勝ち方から優等生かなと思っていたジェニュインが、ど根性の粘りっぷりを発揮したのをみて《本物》だと思った。 タヤスツヨシとのライバル関係があったからこその2着でもあったと。
菊花賞をパスし古馬に挑戦して天皇賞・秋では堂々の2着。
有名な逸話だが有馬記念で強風に驚くような繊細な部分もあったり、なかなか勝ち星に手が届かない時期を過ごし、最後にはマイルCSで復活したりするのは、その後のお話。

 

本命中心不在だと言われた世代を、途中から引き継ぐように堂々と引っ張った《本物》の姿は、とても美しかった。

■『和製ラムタラ』さえいなければ 〜天才も惚れ込んだ逸材〜

サンデーサイレンス旋風が前年に起こり、その勢いも興奮も冷めやらぬ第2世代。
サンデーサイレンス産駒以外にも個性派が顔を揃えた世代でもある。サクラスピードオー、ダンディコマンドなどが筆頭だろうか。
もちろんサンデーサイレンス産駒も負けていない。
母にダンシングキイ──兄姉にエアダブリン、樫の女王ダンスパートナーを持つ期待馬が出現した。

ダンスインザダーク。

期待されないわけがない血統。
この当時、大物といわれる馬は秋以降からのデビューが多かった。サラブレッドにしては遅い6月生まれということもあり、ダンスインザダークは12月にデビューし勝利する。
旧3歳チャンピオンになったのは、東の大将格で同じサンデーサイレンス産駒のバブルガムフェロー。
ダンスインザダークの次走はラジオたんぱ杯3歳S。ここで2頭のライバルに出会った。
兄にダービー馬・ウイニングチケットを持つロイヤルタッチ。こちらも評判馬。
もう1頭はイシノサンデー。
成長途上のダンスインザダークに、完成されたロイヤルタッチが立ちはだかる。
成長途上とは言え、離されての3着。
結果を見れば物足りないが、ロイヤルタッチも選べたはずの天才・武豊騎手があえてダンスインザダークを選んだことに意味を感じつつ、今後どの様に成長曲線を描くのか……そんな期待も感じた。
そして、続くきさらぎ賞ではロイヤルタッチにクビ差の2着。右肩上がりの成長を見せる。
皐月賞トライアルの弥生賞では後方から進出して、ライバルのイシノサンデーを蹴散らした。

ロイヤルタッチは若葉S、青いシャドーロールのバブルガムフェローはスプリングSへと進む。
皐月賞は『四天王対決』と思われたが、バブルガムフェローは骨折で春は休養、ダンスインザダークは熱発回避で休養となる。そしてその後『SS四天王対決』の実現はなかった。
ダンスインザダークは回復が早く、ダービートライアルのプリンシパルSへと駒を進める。
そこを横綱競馬で勝利し、ダービーへ順調な回復アピールした。皐月賞馬イシノサンデー、2着のロイヤルタッチはダービーへ直行。

そして、日本ダービー。
ダンスインザダークは1番人気の支持を受ける。
牝馬のビワハイジが参戦し、祭典をさらに盛り上げる。
レースはサクラスピードオーがいつも通りハナをきり、後続を引きつけながらの逃げを披露する。
ダンスインザダークはその背中を見るかたちの好位にポジショニング。さらにイシノサンデー、ロイヤルタッチはそのダンスインザダークを見るかたちでレースを進めた。
大ケヤキを回っても出入りはない。
そして最終コーナー、一気にレースが動いた。

サクラスピードオーをスッとかわすダンスインザダーク。
SS四天王の2頭は後方で追っている。
内からメイショウジェニエが食い下がるもダンスインザダークが軽やかに引き離す。
あとは坂を登って日本一に、と思った矢先……
1頭の馬が、密かに研いでた牙を解き放つように飛んで来た。
のちに和製ラムタラと言われたフサイチコンコルドである。 
並ぶ間も無くダンスインザダークを差し切って、ダービー馬の称号を得たのである。
前年にジェニュインがタヤスツヨシに差し切られたようにこういったレースは幾度も見たが、それでも強く印象に残るレースだった。

競馬で「タラレバ」の話は禁物かもしれないが、それでも、このときに秋のような競馬をしていれば……とも思ったりもする。
しかし勝負の世界。これは致し方ない事なのだ。ただただ、素晴らしいレースを見せてもらえたことに感謝したい。

ダービー後のダンスインザダークはこれまでと打って変わって豪脚でねじ伏せるようになった。その脚質転換が功を奏し、菊花賞馬へ駆け上る。
怪我をしてしまったのが残念であるが、先を期待したまま引退という運びになる。
「SS四天王」についても。
イシノサンデーはダートでも強さを見せ「四天王ここにあり」と見せつける。ロイヤルタッチは色々ありながらも重賞戦線常連に──個人的にはもっとやれたという思いもあるが……。そして大将格だった青いシャドーロールの天才・バブルガムフェローは秋の天皇賞を勝つという快挙を成し遂げる。この世代の高いレベルを示したと言えるだろう。

 

ダンスインザダークは怪我をして引退したが、菊花賞の推定3ハロン33.8は常軌を逸しており姉と同様にとんでもないギアを隠し持っていたのだろう。 そのギアをもう一度見たかったものである。

■大きな兄貴分の意地と、小さな弟分のダービー

1994年生まれ世代のクラシック路線では、サンデーサイレンス旋風もひと休み。
サンデーサイレンス産駒はサイレンススズカが素質の高さで話題にあがる。その年はメジロライアン産駒のメジロブライト、エアガッツ、牝馬はメジロドーベルが話題に上がっていたのも印象的だ。珍しい血統のランニングゲイルも忘れてはいけない。
さらに、ブライアンズタイム産駒の勢いが凄まじい年でもあった。
朝日杯勝ちのマイネルマックス、シルクライトニング、セイリューオー、サニーブライアン……そして。

シルクジャスティスと、エリモダンディー。

同厩舎で管理されたシルクジャスティスとエリモダンディ。
エリモダンディーは馬格も小さく他馬に威嚇され怯えたりもしていたそうだか、シルクジャスティスが前にでてエリモダンディーを庇っていたそうだ。そのうちに信頼関係が築かれて、併せ馬のパートナーもつとめるようになる。シルクジャスティスは、どうしてかエリモダンディとの併せ馬だけは真剣だったそうである。
そして兄貴分のシルクジャスティスはというと、旧3歳秋にデビューするも初勝利まで7戦を擁した。デビューは芝だったものの、その後ダートを使われての勝利である。父親がブライアンズタイムだけあってダートで使われていたのは頷けるが、主役たちが皐月賞のステップで盛り上がる時期での勝利、クラシック路線からは大きく出遅れていた。
──が、人気薄ながら毎日杯で3着に入ると、若草S、京都4歳特別と豪脚を武器に連勝。
ダービーという大舞台へと駒を進める。
弟分のエリモダンディーはというと、旧3歳夏にデビュー勝ちし、その後少し足踏みしたものの、年が明け連勝。若駒Sではクラシック候補の一角、ランニングゲイルを豪脚でなぎ倒しクラシック戦線の有力馬として名乗りを上げる。そして共同通信杯・すみれSと走り、クラシック第1戦の皐月賞へ。
結果はサニーブライアンの逃げの前に7着と奮わず。追い込み一辺倒では中山の直線では厳しかったというのもあるだろう。そしてエリモダンディーもまたわ日本一を目指し、日本ダービーへと駒を進めた。
そして日本ダービー。
1番人気はメジロライアンの悲願達成を期待されたメジロブライト。
2番人気は天才が乗るランニングゲイル。
兄貴分シルクジャスティスは3番人気、弟分のエリモダンディーは8番人気。
ゲートが開くとサイレンススズカがかかり気味に。そして大外から切れ込むように、皐月賞馬サニーブライアンが先頭へ。
サニーブライアンが単独で逃げ、シルクジャスティス、エリモダンディーはメジロブライトを見ながらいつものポジション後方待機。
あまり動きもなくレースは進んでいく。
迎えた勝負どころ、シルクジャスティスはメジロブライトと同じタイミングで仕掛ける。
前を行くサニーブライアンは勢いが止まらない。
そして、直線。
大外でメジロブライトと並ぶようにシルクジャスティスが末脚を必死に伸ばす。エリモダンディーも進路を真ん中よりに取ってスパートをかける。
サニーブライアンが悠々と1人旅しているものの、後続は必至だ。先行集団を大外からシルクジャスティス、メジロブライト、真ん中からエリモダンディーが飲み込んだところで、サニーブライアンがゴールイン。

2着に兄貴分シルクジャスティス。弟分のエリモダンディーは4着。

その後、シルクジャスティスは有馬記念を制覇し、エリモダンディーは京阪杯、日経新春杯を制する。
同厩舎で脚質も似てる兄弟分。
ダービーでは兄貴分の意地であろうか、2着になったシルクジャスティス。

 

長い府中の直線。
2頭はどういった気持ちで駆け抜けたのだろうか。

■ヤンチャ坊主が逃した大きなもの

1997年に生まれたヤンチャ坊主。

エアシャカール。

天才・武豊騎手にして、頭の中を見てみたいと言わしめたほどの、ある意味傑物だ。
エアシャカールは3歳秋にデビューするも5着。
翌月、折り返しで勝利。2着を挟みホープフルSを勝ち、クラシック戦線に名乗りを挙げる。
2歳戦終了までに、東京スポーツ杯3歳Sでジョウテンブレーヴが、朝日杯でエイシンプレストンが勝利。その当時クラシック登龍門だったラジオたんぱ杯3歳Sは、父サクラチトセオー譲りの末脚を武器にする、もう1頭のヤンチャ坊主・ラガーレグルスが勝利。続々と素質馬がクラシック路線に名乗りを挙げていた。
エアシャカールはホープフルS後休養に入り、弥生賞から始動。
年を明けて、フジキセキの第1世代・ダイタクリーヴァ、遅れてきた大物フサイチゼノンなども台頭してきていた。
クラシックを担う1戦となった弥生賞、エアシャカールはフサイチゼノンに遅れをとったものの2着で皐月賞の権利を確保。
皐月賞ではヤンチャ坊主の一翼・ラガーレグルスがゲートを出ないというアクシデントがあったものの、エアシャカールは外め後方からレースを進めて内にいる1番人気のダイタクリーヴァを目指す冷静なレースをする。
そして3コーナーくらいから大外を回して仕掛けていき、直線に入ると、この馬の代名詞とでもいっていいだろう内にササりながらの直線一気を見せ、最終的に併せ馬の格好に近い形に。
最後はクビ差でダイタクリーヴァに先着した。
ヤンチャ坊主は、ヤンチャ面を見せながらも皐月賞で重賞初制覇。クラシック1冠目を勝利する。 さらにその後、夏のヨーロッパ遠征の計画が発表される。
ダービーへの最終搭乗便では、名牝アグネスフローラの子・アグネスフライトが挑戦権を手にし、そして20世紀最期の大一番へと突入した。

パープルエビスが作るハイペース。
1枠2番のエアシャカールはいつも通り後方で前を伺う。
皐月賞2着のダイタクリーヴァは中団、そしてアグネスフライトはエアシャカールより後ろの最後方で待機。
レースが動いたのは府中名物大ケヤキの手前。
エアシャカールが外から進出を開始し、前を飲み込みにかかったのだ。アグネスフライトはまだ後方。
直線に入るとエアシャカールが大外からヨレながらもグングンと加速一気に先頭へ踊り出す。普通は勝ちパターンのはずが、今回は違った。
1頭だけ凄い末脚──まさに鬼脚で、名牝の子アグネスフライトが飛んでくる。エアシャカールもヨレるものの脚は鈍らず先頭を譲らないが、それを勝るアグネスフライトの末脚が光った。
三宅アナの名実況「豊の意地か!河内の夢か!」が印象的だ。
エアシャカール騎乗の武豊騎手とアグネスフライト騎乗の河内洋騎手は、同厩舎の兄弟弟子。
兄弟子の河内騎手はダービー未勝利、弟弟子の武豊騎手はダービーを勝利している。その関係性が、あの名実況を、そしてあの名勝負を導き出したのだと思う。
兄弟子の夢をのせたアグネスフライトの末脚にわすが7センチという差で差しきられた、エアシャカール。
その後ヨーロッパ遠征を挟み、菊花賞を勝利したエアシャカールは準3冠を達成する。
わずか7センチ。
されど7センチ。
気性が良かったりササリ癖が無ければ3冠馬になってたかもしれない。
けれど、勝負は1度きりなのだ。

 

ヤンチャ坊主だったからこそ、あえて天邪鬼を出してのダービー2着だったのでは……と思う、今日この頃である。