チャンスを掴む、その日のために~ミルファームの2歳馬情報2018~

「ライバルが少ないうちに勝ち上がりたいですからね。そこを目指して調整をきちんとすれば、1週目にだって間に合います」

昨年の2歳馬インタビューで、ミルファームの清水代表はそう告げた。

早期デビューが多いことに対する、ミルファームの答え。

言われてみればその通りなのかもしれない。

しかし、目標に向かって調整するとは言うだけなら簡単だが、実際はそう上手くはいかないことが多い。

それでも、ミルファームはやってのける。

野望達成への道は、こうしたことの積み重ねなのだろう。

 

「自分が生きているうちに、一度くらいチャンスはあると思っています」

今は遠くとも、その日が来ることを信じ抜く。

ミルファーム代表の清水氏は、そんな人間だ。

現在の競馬界の勢力図を逆転させたいと目論み、日夜チャンスを狙っている。

そんな野望と情熱に満ちたミルファームで2016年に産声を上げた馬たちが、2018年、デビューを果たす。

有限会社 ミルファーム。

1996年8月に開業され、競走馬の「生産」「育成」「所有」を行っている。

2015年のヴィクトリアマイルではミナレットが3着となり、3連単2000万円馬券の立役者となった。

現役馬ではストーミーシーが今年3月のダービー卿チャレンジトロフィーで3着に入るなどの活躍をみせている。

同レースに複数頭出走させる、いわゆる「多頭出し」はミルファームの2歳戦における風物詩とも言える。

メンコの額に赤い「ハート(牝馬)」と「Mの文字(牡馬)」のマークと言えば、ピンとくる人も多いだろう。

今年デビューのミルファームの2歳馬は、所有頭数48頭。(共有馬1頭を含む)

そのうちミルファームで生産された馬は19頭。

今回はその中から、清水代表にお話を伺った4頭を紹介したい。


ホワイトヘブン(牝)

父ダンカーク

母オルレアンノオトメ

母父チーフベアハート

オルレアンノオトメの二番仔の名は、ホワイトヘブン。

父にダンカークを選んだのは、

「大ぶりな産駒を期待して」

とのことだった。

幅が出るように、パワー型の馬が出るようにと願っての配合だったが……。

生まれてみれば、

「薄造りな牝馬」

だったというのだから、生産の難しさを感じさせられる。

しかし、想像通りにいかないのもまた、馬産の魅力でもあるだろう。

ホワイトヘブンは、母であるオルレアンノオトメに似た横姿をしており、背が高く、ひょろっとした所も母似だという。

愛しそうにそう語る清水代表の声は、明るい。

その声から清水代表のホワイトヘブンへの想いを知り、ホッとする。

──ホワイトヘブンは、とても大事に育てられている。そう確信出来るような明快さを、お話の節々から感じ取ることが出来た。

当初はゲートになかなか入らなかったが、それも武市厩舎の努力により解消し、現在はデビューに向けて調整を進めている。

母オルレアンノオトメは芝・ダートともに勝ち星をあげており、兄オルレアンノムスコ(父パイロ)は芝からダートへ替わった。

ホワイトヘブンはどういった路線を進むのか、気になるところだが……。

「ダートっぽさがある」

とした上で、なおかつ芝の可能性も見出しているようで、

「芝かな」

との回答をいただいた。

しかし、逡巡する清水代表の口ぶりからは、ホワイトヘブンのダート・芝、両方への可能性を感じた。

デビューは東京4週目の芝1800か、芝1600を予定している。

「まだまだ逞しくなって欲しい」

という清水代表の言葉からも、デビューは早くともゆっくり成長を見守っていきたい。

ウズシオ(牡)

父フリオーソ

母パドブレ

母父ホワイトマズル

姉パッセ(父パイロ)は、左後ろ脚の球節から下が反対を向いた状態で生まれてきた。

生後よりギプスをするなどの処置を施し、無事にデビューを迎え、現在も現役として走り続けている。

そんなパッセのひとつ下の弟が、ウズシオだ。

パッセのこともあり、出生時のことが気になったのだが、ウズシオは何の問題もなく元気に誕生したとのことだった。

パッセについては、

「気性が牝馬らしく、ムラのあるタイプ」

とのお話だったが、ウズシオは牡馬。

良い方に違いが出てくれることを期待したい。

それも今後、レースを重ねていくうちにわかるだろう。

ウズシオは、現在520から530キロと馬体に恵まれている。

その大柄な馬体に加え、父がフリオーソということもあり、ダート戦を使っていく予定だ。

しかし、デビュー戦は

「まずは芝を走らせるかもしれない」

とのことだった。

美浦・蛯名厩舎に入厩済みで、デビューが待ち遠しい1頭である。

ゴーアブロード(牡)

父モンテロッソ

母ベルグチケット

母父ウイニングチケット

ミルファームのOcean View Parkで育成中の

ゴーアブロードとその写真を撮る伊藤大士調教師

母ベルグチケットは1999年フェアリーSの勝ち馬。

兄ダイイチターミナル(父コンデュイット)は、小倉2歳Sで2着となっている。

父モンテロッソは産駒を大きく出す種牡馬で、子出しが良いとのこと。

清水代表はモンテロッソ産駒に好印象を持っているようだった。

ミルファームでは先日の葵S(新設重賞)に出走したビリーバーなどがおり、これからの活躍も期待される。

ゴーアブロードはすでに500キロオーバーの馬体で、モンテロッソ産駒の特徴を受け継いているようだ。

動きがよいとの評判馬で、デビューは間近。

所属は美浦の伊藤大士厩舎。

函館でのデビューを予定しており、

「函館2歳Sを勝ちます」

と強気な発言からも、その期待はかなり高いことが伺える。

具体的な重賞名が出てくることからも、有望視されているのには違いない。

ミルファーム、期待の1頭だ。

オウムアムア(牡)

父キングズベスト

母リーベストラウム

母父ゼンノエルシド

今年のダービー卿チャレンジトロフィー3着など、現在ミルファームの出世頭であるストーミーシー(父アドマイヤムーン)。

その3つ下の弟にあたるのが、オウムアムアだ。

少し変わった名前の意味は「太陽系外から飛来したと目される恒星間天体」とのこと。

宇宙規模の名前を持つオウムアムアは、その名の通りスケールの大きな活躍を期待されている。

すでにオウムアムアに騎乗してみた岩部騎手は

「物が違いますね」

と言っていたそうだ。

父キングズベストの理由を尋ねると、

「一通りの種牡馬を試したい思いもある」

との回答をいただいた。

確かに、色々な種牡馬を試してみたいというのは、生産者の強い想いだろう。

様々な可能性を模索し、より良い競走馬を送り出していく──そのためには、試行錯誤は欠かせない。ストーミーシーの母リーベストラウムには、これまでコンデュイット・アドマイヤムーン・アイルハヴアナザーらが配合されている。

予定しているデビュー戦には他に有力馬も出走するとのことだが、負けるつもりは微塵もない。

斎藤誠厩舎に入厩済みで、騎手は田辺騎手を予定しているとのことだった。

「距離はマイルくらいまでじゃないかな」

自信と希望に満ちた声で、清水代表はそう告げる。

オウムアムアへの期待が、発せられる一言一言からひしひしと伝わってくる。

ミルファームの2016年生まれの馬たちのなかで

「一番大物感があるのはオウムアムア」

だと即答した清水代表。

その期待に応える走りで、ストーミーシーとともにミルファームを引っ張っていって欲しい1頭である。

以上、4頭を注目馬としてピックアップした。


その他、ヘデラ(父キングズベスト、母エキナシア、母父スニッツェル)は初仔ながら注目している1頭だという。

ビリーバーの妹となるシャウエン(父モンテロッソ、母デイドリーマー、母父ネオユニヴァース)も期待馬として挙げていただいた。

シャウエンは姉ビリーバーより二回りほど大きい500キロの馬体で、福島デビュー予定だ。

2018年5月23日

美浦・石毛厩舎に入厩した日のシャウエン

最後になったが、ヴァップの2016に触れておきたい。

本来であれば、ピックアップすべきもう1頭だったヴァップの2016。

 

しかし、残念ながら1歳時に死亡したとのことだ。

わたしは、存命だと何ら疑わず、他の馬と同じように質問をした。

しかし清水代表からの返答は「死亡した」という望みを失うようなものだった。

 

自分の甘さを、痛感した。

例え無事に生まれても、その後何が起こるかはわからない。

命は当たり前ではない、ということを改めて思い知った出来事だった。

「生きていればデビュー出来る」

清水代表のその言葉は、そういったリアルな現場を見つめ続けてきたからこそ発せられたものだったのだろう。

 

生まれた馬がすべて無事にデビュー出来るわけではない。

頭ではわかっていたが、その事実を改めて突き付けられた。

だからこそ、デビュー出来る馬たちのことを全力で応援したい。

それはきっと、デビューに至らなかった馬たちへの追悼にもなるはずだ。

 

2歳馬は、いつデビューするのかというのも楽しみのひとつだろう。

しかし、なかなかデビューしないとなると、不安になるのも競馬ファンの性というもの。

その点、ミルファームはその殆どが早期デビューを遂げる。

「まずはデビュー」の目標をしっかりと達成してくれるので、応援する側としても安堵を覚える。

 

「早くにデビューし、レース結果の一喜一憂を長く楽しみたい」

そんな競馬ファンには、ミルファームの馬を心からオススメしたい。

今年も上述のとおり、応援したくなるような馬たちが揃っている。

 

「自分が生きているうちに一度くらいチャンスはあると思っています」

もしかしたら、今年の2歳馬の中に、そのチャンスは潜んでいるかもしれない。

虎視眈々と形勢逆転を目指す。

 

今年も、ミルファームから目が離せない。

文・笠原小百合

写真・ミルファーム、まゆぞう