歴史をつくれ、オジュウチョウサン。〜開成山特別観戦記〜

大宮駅17番線ホームに、JR東日本E5系新幹線が滑り込んで来る。

ロングノーズが特徴的なこの緑の新幹線が、私を『旅打ち』という非日常へ連れて行ってくれるのだ……!

 

私の趣味に『旅打ち』が加わったのは比較的最近のことだ。

2016年阪神スプリングジャンプ。

アップトゥデイト、サナシオン、オースミムーン……障害界の強豪3頭が一度に顔を揃えるというまたとない機会に、居ても立っても居られずに夜行バスに飛び乗ったのがきっかけだった。

遠くの競馬場へ行く非日常感。

それに魅せられてからというもの、タガが外れたように全国各地の競馬場を巡り、今に至るのだ。

 

夜行バスと比べ、新幹線は速い。

大宮駅から1時間余りで福島駅に着いた。

駅構内に設置された福島競馬開催をPRする馬像を見て、否が応でも旅打ち気分は盛り上がる。

福島駅東口から競馬場直通のバスに乗り込み、遂に到着。

来たぜ、福島競馬場っ!

『歴史をつくれ。』

福島競馬場開設100周年のキャッチコピーだ。

そう、今日は一頭の競走馬が歴史をつくる瞬間を目にするために、ここへ来たのだ。

その馬の名は、オジュウチョウサン。

 

オジュウチョウサンは今や障害界を飛び越えて、競馬界のスターホースだ。

障害レースが大好きで、それなりに長い間見てきた自分でさえ「この先、これだけの障害馬に出会えるのだろうか」と思わせる、歴史的名馬。

 

そんな障害の絶対王者オジュウチョウサンが平地競走に挑むという驚きの報が飛び込んできたのは5月下旬のことだった。

障害ファンとしては複雑な思いもあったのだけれど、それでも、やるからにはオジュウチョウサンを応援したいという気持ちが勝った。そして、応援するなら現地で──、そう決めた瞬間から今回の旅打ちは始まったのだ。

 

この日は幸運にも障害レースが2鞍組まれていた。まずは1Rの未勝利戦……と、その前に!

大事なミッションがあるのを忘れてはいけない。

そう、オジュウチョウサンのアイドルホースぬいぐるみLサイズゲット、というミッションを。

 

気持ち早足に特設のグッズ売り場へ向かうと、そこには……

おかしい、グッズ売り場は3番柱のはずなのに最後尾は8番柱。

こんなに並んでいるとは、まったくもって想定外……!

障害戦を埒沿いで見たい気持ちと、ぬいぐるみが売り切れるリスクを天秤にかけて……今回は並ぶ方を選んだ。

仕方ない、並びながらでもレースは見られるし、と最後尾へ。

 

列に並び始めてからほどなくして1Rが発走。

それなりに長い間障害競走を見てきた自分でも、何かの列に並びながらレースを見たのは初めてだった。でも、これはこれで面白い経験が出来たので良かったかもしれないとも思う。

レースは、本命に推したトゥルーハートが障害デビュー戦ながら2着に入り的中。障害で馬券を当ててオジュウチョウサングッズ代を捻出するとは、障害ファンとして理想的な展開かもしれない。

 

そうして並び続けること1時間。

ようやく列の先頭にたどり着いた。

幸いにもアイドルホースぬいぐるみのLサイズもまだ残っており、無事購入達成。

やったぜ……!

写真はこの日の戦利品の数々。

可愛いぞ、オジュウチョウサン。

 

そうこうしている内に、4Rの障害オープンの時間がやってきた。

今度こそパドックもしっかり見て、レースも埒沿いで観戦してみる。

竹柵と馬体が擦れる音。

障害の土台に蹄がぶつかる音。

これだよ!この音こそ、現地観戦の醍醐味なんだよね!

……なお馬券は本命のシゲルロウニンアジが3着で惜しくもハズレ。残念。

スタンド内には、翌日の七夕賞にちなんで七夕飾りが飾られている。

七夕賞といえば、夏の福島競馬のハイライトだ。福島競馬場の「思い出のベストホース大賞」で1位に選ばれたツインターボが七夕賞を制した1993年7月11日、この日の入場者数47,391人は今も破られていない福島競馬場の入場者レコードだ。

 

七夕賞に向けて盛り上がる福島競馬場に、今年はもうひとつ、日本中の競馬ファンの注目を集めるレースが出来た。

開成山特別、3歳以上500万下、芝2600m。

 

前の方でパドックを見たいので、念のためひとつ前のレースからパドックに行っておくことに。

……平場のパドックにしては人が多過ぎる気もするけれど、まぁ周回が終われば少しは人も減るだろう……と思っていたものの。

……全然、人が減らない。

前のレースの出走馬が本馬場へ向かって、ガランとしたパドックに不釣り合いな大勢の観客。

『みんなオジュウチョウサンを観に来ているんだ。その大勢の観客のうちの一人になったんだ』と、なんだか不思議な一体感を感じた。

 

そしてパドックに、開成山特別の出走馬が姿を現す。

トレードマークの水色のメンコとチークピーシーズ。

ゼッケン6番。

オジュウチョウサンだ。

彼が目の前を通るたび、シャッター音が一斉に響く。

オジュウチョウサンの様子はどうだろう。

眼の奥に力強い光を湛えている。

暮れの中山で、春の中山で、見てきた時と変わらない──いつものオジュウチョウサン、だと思う。

 

ほどなくして出走馬がパドックから本馬場へ向かう。

最初は指定席からレースを見ようと思っていたのだけれど、このレースはコースのすぐ近くで見るべきだ、そう感じた。

馬券は買わなかった。いや、オジュウチョウサンのがんばれ馬券だけ買った。いわゆる「当ててお金を増やすため」の馬券は買いたくなかった。余計な雑念は一切持たずに、ただただ集中して見たい、自分にとってこのレースは、そういうレースなのだ。

 

ファンファーレが鳴り終わると共に大歓声が沸き起こった。

ゲートが開いた。オジュウチョウサン、絶好のスタート。スタンドがどよめいた。

一周目。期せずして拍手が起こる。自分も拍手で馬群を迎える。

二周目。4コーナーで早くもオジュウチョウサンが先頭に立った。手応えも良い。これはひょっとしていけるんじゃないか。

直線。

「オジュウ、いけぇーーーーーーー!!!!!」

声を枯らして叫んだ。

オジュウチョウサンの脚色は衰えず、後続との差を広げてゆく。

そして、ゴール。

 

勝った、勝ったよ!平地でも勝ったよ!オジュウチョウサン、すげーよ!!

 

福島競馬場を拍手と大歓声が包み込む。歴史的な勝利を挙げたオジュウチョウサンと武豊騎手が声援に応える。

ああ、この瞬間に立ち会えて良かった。

自分はこの日のことを一生、忘れない。

 

ウィナーズサークルは黒山の人だかりだった。

何が起こっているか分からないから、スマホを頭上に掲げて撮り、画像を見て何が起こっているか初めて知る、そんな状況だった。それでも、人馬を直接讃えたくて、そこに居たのだ。

 

この日は少し早めに競馬場を後にした。

このレースの余韻に長く浸っていたかったからだ。

旅打ち、という割には馬券をあまり買わなかったけれど、たまにはそういう日もあっていい。そうは言いつつも、障害未勝利の当たりで収支は少し浮いたし。

 

福島競馬場に来ると、福島の方が本当に競馬を愛していることを実感出来る。スタンドには小さな子どもを連れた家族連れが沢山居るし、一般席でも落ちているゴミは驚くほど少ない。

ほんの少し他の競馬場より時間がゆっくり流れているような福島競馬場が自分は大好きだ

 

今回も素敵な思い出をありがとう。

バイバイ福島、また来るね。

 

しまった、福島名物の円盤餃子食べ損ねた!まぁ、それはまた今度来た時のお楽しみにしておこうかな。

とりあえず、買って来た福島の地酒でオジュウチョウサンの祝勝会だ!