[重賞回顧]第61回アメリカジョッキークラブカップ(GⅡ)

歴史ある古馬重賞レース「アメリカジョッキークラブ賞(AJCC)」。

1960年に日米友好の一環としてスタートしたAJCCは、2020年で第61回目を迎えました。

2019年は、1年1ヶ月ぶりのレースとなったシャケトラが菊花賞馬フィエールマンを見事に競り落とし、記憶に残る復活勝利を飾りました。

過去には、現在種牡馬として活躍するルーラーシップや生粋の中山巧者のマツリダゴッホ、武豊騎手をダービージョッキーに押し上げたスペシャルウィークや天皇賞馬メジロブライトも勝ったレースです。

迎えた第61回のAJCCですが、グランプリホースで国内復帰戦となるブラストワンピースに大きな注目が集まりました。ブラストワンピースを馬券の軸に置くのか、はたまたブラストワンピースを危険な人気馬と位置付けるのか──その取捨が、今年のAJCCの予想における最大のポイントとなりました。

レース概況

ゲートが開くと、予想通りスティッフェリオが積極的に先手を奪い、ペースを握ります。

ステイフーリッシュが積極的に押し上げて2番手。3番手にはグローブシアター、4番手にはブラストワンピースが続き、ミッキースワローも今回は好位の5番手に位置取ります。

スティッフェリオが刻む前半1000mのラップは62.4。
馬場がタフな状態であることを考慮してスローペースと言えるでしょう。 

そのスローペースを嫌ってか、向こう正面からマイネルフロストが外から早めに仕掛けます。マイネルフロストのマクリ気味の仕掛けに呼応するかのように、ブラストワンピースやニシノデイジーも進出を開始。

縦長の隊列が徐々に馬群と化し、4コーナーへ。

ここで、アクシデントが発生します。
2番手で積極的なレース展開をみせていたマイネルフロストが故障を発生して、ズルズルと後方に下がっていきます。
その結果、マイネルフロストの後方にいたブラストワンピース、ニシノデイジー、ミッキースワロー、ラストドラフトは、故障を発生したマイネルフロストを避けるため大きく外を回すことになり、不利を受けます。

迎えた直線。
逃げるスティッフェリオが外に進路を取る中で、内々をロスなく立ち回り早め先頭に立ったステイフーリッシュが粘り込みを図ります。

続くのは、ステイフーリッシュに照準を合わせて、不利後に鋭く内に切れ込んだブラストワンピース。3番手には、逃げたスティッフェリオが続きますが脚色は一杯に……。
勝負はステイフーリッシュ、ブラストワンピースの2頭に絞られます。

残り200m。
ルメール騎手の激に応えて懸命に粘るステイフーリッシュですが、中山の急坂をモノともしないブラストワンピースが巨漢をダイナミックに弾かせ、鋭い脚で迫ります。

残り50m。
さらに鋭く迫るブラストワンピースがステイフーリッシュを捉え、力強く交わします。
その後もブラストワンピースはリードを広げ、最後は2着のステイフーリッシュに1馬身1/4差をつけ快勝。

3着には不利を受けながらも、大外から力強く伸びたラストドラフトが入線。
4着には同じく外から伸びたミッキースワローが続きました。

勝ち時計は2分15秒0。
過去10年のAJCCで2番目に遅い勝ち時計となり、今年のAJCCは例年以上にタフなレースとなりました。

各馬短評(血統的視点もふまえて)

1着 ブラストワンピース(1番人気)

血統としては、ダンジグ系の父ハービンジャーに、トライマイベスト=El Gran Senor、His Majesty=Graustarkの全兄弟クロスを内包しいる、強い力感・パワーを感じさせる血統です。

今回は546kgと、過去最重量の馬体重で出走してきました。春のG1戦線を見据えた仕上げであることは間違いなく、この仕上げでしっかりと勝ちきるわけですから、やはり能力は抜けているのでしょう。

今回の勝利で、ブラストワンピースは前走から距離短縮で挑むレースは6戦して5勝となり、また400mで割り切れない「非根幹距離」においても5戦して4勝となりました。この2つの条件、もしくはどちらかの条件が揃う際がブラストワンピースの好走パターンといえます。今後の馬券予想時にしっかりと抑えておきたい傾向です。

2着 ステイフーリッシュ(5番人気)

AJCCは5年連続でロベルト系の血統を持つ馬が馬券に絡んでおり、このロベルト系の血統が好走血統ですが、今年は母の母の父にロベルト系の血統を持つステイフーリッシュが馬券に絡みました。

父はステイゴールドで、不向きのコースや距離、馬場状態で負けた後に得意コースに戻って巻き返しができることが特徴の種牡馬。前走10着からの巻き返しは、いかにもステイゴールド産駒らしさが出た走りです。

この馬の重賞での好走パターンは、上り3Fが35.0秒以上かかるレースで末脚の持続力を発揮すること。AJCCのレース全体の上り3Fが36.7ですから、今回の2着で該当レースは10戦して2着4回、3着4回となり、さらに成績を高めました。今後も、タフな重賞レースを中心に好走が期待できそうです。

3着 ラストドラフト(4番人気)

母が桜花賞馬マルセリーナでその父がディープインパクトのため、母系の影響が強く、道悪よりは良馬場向きで終いのキレを活かすタイプの馬と考えていましたが、今回の走りを踏まえると、父系の父ノヴェリストが色濃く出た馬と捉えるべきでしょう。

ある程度重ための馬場にも対応でき、高速馬場よりは時計のかかる馬場の方が向きます。また、休み明けよりは使われて良化してくる叩き良化型。今回の成績で距離延長は2戦して1勝、3着1回と安定して好走している点も見逃せません。

この点を次走以降のヒントにしていきたい馬です。

4着 ミッキースワロー(2番人気)

小回りコース、そして非根幹距離に強いトーセンホマレボシ産駒で中山芝2200mは抜群の成績を誇ることから、ここでも馬券圏内は固いと予想しましたが、僅差の4着。

今回の結果は、4コーナー手前でマイネルフロストの故障により受けた不利が大きすぎた印象です。

ただし、これで道悪成績は6戦して1勝、3着外5回となりました。

不利が大きく響いたことは間違いありませんが、道悪馬場よりは良馬場の方がよい馬ということを改めて感じさせるレースであったことは確かです。

総評

今年のAJCCは例年以上にタフな馬場状態でレースが行われ、馬券に絡んだ馬はその適性の高さを示して好走しました。

その中でも勝ったブラストワンピースは、4コーナーでの不利を受けながらもきっちりとステイフーリッシュを差し切る強い内容。改めてグランプリホースとしての能力の高さを示しました。

2着のステイフーリッシュは、先行して内をロスなく立ち回るレース振りが素晴らしく、ルメール騎手の手腕が光りました。3着のラストドラフトは、不利を受けながらミッキースワローを差し切っての3着ですから力があることを示しました。明け4歳馬で今回のレースで7戦目ですから、まだまだ成長が見込めます。今後、注目の一頭です。

また、4着のミッキースワローも悲観する内容ではないため、今後も得意舞台での重賞レースでの好走が期待できます。

また、予後不良となったマイネルフロストのご冥福をお祈り致します。素晴らしい名馬でした。

写真:ウマフリ写真班

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