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ディープインパクトとキングカメハメハ 〜2頭の名種牡馬が令和に託す『希望』〜

 

平成後期の競馬界を支えた2頭のサラブレッドが、この世を去った。

キングカメハメハと、ディープインパクト。

ともにダービー馬であり、種牡馬としても多大なる功績を残した2頭だ。

競馬ファンでなくとも、その名を知る人は多いだろう。特にディープインパクトは、社会現象を巻き起こしたほどのサラブレッドだった。キングカメハメハも「大王」の名に恥じない、凄まじい才能と実績を持つサラブレッドであった。

 

ディープインパクト

(父:サンデーサイレンス、母:ウインドインハーヘア)

 

競走馬としての実績も非常に優れている「稀代の名馬」であることは疑う余地もないが、引退後、生産界に与えた影響はそれ以上なのではないだろうか。

キングカメハメハが初めてリーディングサイアーを獲得した2010年、ディープインパクトは2歳リーディングサイアーを獲得。翌年には1位キングカメハメハ、2位ディープインパクトと新興勢力ながら一気に上位まで駆け上がり、そこからガッチリと2強体制を続けていくこととなる。

2012年から2018年まで、ディープインパクト・キングカメハメハが種牡馬「二強」の座を他に譲ることはなかった。

 

そんな2頭が──令和の時代が幕を開けて間もない時期に──立て続けに天へと昇ったことは、競馬界に大きな衝撃を与えた。

第71代ダービー馬・キングカメハメハ 。

第72代ダービー馬・ディープインパクト。

リーディングサイアーでありながら、ダービーを勝利する実力も持ち合わせていた究極のサラブレッド2頭。

今回はその2頭の功績に、改めてスポットを当てていこうと思う。

 

アパパネ(父:キングカメハメハ、母:ソルティビッド)

牝馬三冠などG1を5勝

 

ディープインパクトとキングカメハメハ──実はこの2頭には、多くの共通点がある。

生産がノーザンファームであること。

セレクトセール出身馬であること。

オーナーが金子真人氏(もしくは金子真人ホールディングス)であること。

国内での敗北はたった一度だけであること。

セリ取引価格も、キングカメハメハが8190万円でディープインパクトが7350万と似通っている。

そして何より、2頭のダービー制覇時のタイムは、どちらも2:23.3。

これは当時のレコードである。

1年の違いはあるものの、この2頭は全く同じタイムで栄冠を勝ち取っているのである。

 

しかしこの時代を象徴する強さを持つ2頭が、直接戦うことはなかった。

ディープインパクトがデビューする前にキングカメハメハは引退していたためだ。

日本競馬界歴代最強クラスの呼び声高い2頭の「戦いの場」は、現役競走馬としてではなく、種牡馬としてのステージへと持ち越されることとなった。

 

ルーラーシップ(父:キングカメハメハ、母:エアグルーヴ)

香港G1・クイーンエリザベスCを制覇

 

種牡馬となったキングカメハメハは、初年度産駒から重賞馬を複数輩出。さらに二世代目からは三冠牝馬アパパネをはじめ、ローズキングダム・ルーラーシップといった国内外のG1馬を送り出す。

キングカメハメハから2年遅れて種牡馬デビューしたディープインパクトは、初年度から多くのG1馬を送り出す。そしてキングカメハメハ同様に、二世代目で三冠牝馬を輩出。その三冠牝馬ジェンティルドンナは、年度代表馬にも二度輝く活躍を見せた。加えてディープブリランテの活躍で早くも「ダービー父子制覇」を達成し、翌年にはキズナでダービーを連覇。

たった数年で、2頭は新時代の幕開けをアピールした。

 

キングカメハメハはクラシック路線での「ディープ旋風」に対抗するかのように、三世代目では短距離王・ロードカナロアを、四世代目からダート王・ホッコータルマエを、五世代目からは2015年のJRA賞最優秀4歳以上牡馬に輝いた古馬G1馬・ラブリーデイを送り出す。

ディープインパクトは上述のクラシックホースに加え、桜花賞の四連覇を達成。

セレクトセールをはじめとした競り市の落札価格は、ディープインパクト産駒・キングカメハメハ産駒を中心に高騰し、大いに賑わった。いわゆる「高額の良血馬」をしっかりと活躍させる2頭は、多くの生産者にとっても計算しやすい、頼もしい存在となったのだ。

 

日本を代表する種牡馬・サンデーサイレンスの後継者、ディープインパクト。

サンデーサイレンスの血を持たない大種牡馬・キングカメハメハ。

 

2頭の構図は単純かつシンプルであり、だからこそ応援する者にとって、燃えるものがあった。

 

ジェンティルドンナ(父:ディープインパクト、母:ドナブリーニ)

年度代表馬(2012・2014年)

 

そうして、2015年クラシックがやってきた。

 

2015年のクラシックの主役は、キングカメハメハ産駒のドゥラメンテ。

国内でも有数の牝系「ダイナカール系」であり、G1馬アドマイヤグルーヴを母に持つドゥラメンテは、デビュー前から注目を集める存在であった。

アドマイヤグルーヴは父がサンデーサイレンスのため、同父を持つディープインパクトとは配合のできない馬だった。キングカメハメハは平成中期に訪れた「サンデーサイレンス時代」の活躍牝馬たちとの配合でも大いに成功を収めた種牡馬だったと言えるだろう。

数々のG1を制覇していたキングカメハメハ産駒だが、実はその時代まで牡馬クラシックのタイトルとは無縁。この馬でいよいよダービーを──そんな気持ちで熱視線を送っていたファンは少なくなかった。

 

一方でディープインパクト産駒にも注目を集める素質馬・リアルスティールがいた。

リアルスティールの曽祖母であるMiesqueは世界的な良血馬であり、数えきれないほどの活躍馬を出してきた牝系だった。

リアルスティールの母ラヴズオンリーミーはそうした血統的価値を認められ、未出走馬ながらも90万ドルという高額な取引価格で日本へと輸入された。その輸入における大きな理由が「種牡馬ディープインパクトとの配合」目的だったということは、輸入された2010年〜2018年までの間の配合相手がほとんどディープインパクトのみだったという点からも容易に想像がつく(他にはハーツクライとの配合が1度試されたのみ)。

 

そんな注目の2頭が初めて激突したのは、G3・共同通信杯。

そこでは、既にデビューしてから3戦を消化していたドゥラメンテが、単勝1.8倍という圧倒的支持を得ていた。デビュー2戦目というリアルスティールは、経験の浅さから3番人気に甘んじる。

しかしレースが始まると、道中折り合いを欠いたドゥラメンテが半ば自滅する形で、リアルスティールが半馬身差で勝利という結果になる。

一躍「皐月賞馬候補」の筆頭に躍り出たリアルスティールだったが、それも次走で敗れることでクラシック戦線が混沌を極めることとなった。リアルスティールをスプリングSで撃破したのは、決して良血とは呼べない評価を受けていた伏兵、キタサンブラックだった。キタサンブラックの父は、ディープインパクトの兄であるブラックタイド。G1実績は皐月賞の16着のみであり、「ディープの兄」という肩書きで人気を集めた種牡馬だったが、こうして重賞を勝つ──さらには将来的に2年連続で年度代表馬となる──キタサンブラックという究極の実力馬を出したというのだから、血統というのは奥深い。

そうした黒星を踏まえて皐月賞ではサトノクラウンに1番人気を譲ったドゥラメンテとリアルスティールだったが、結果は1着ドゥラメンテ・2着リアルスティール・3着キタサンブラックという着順に。

これはキングカメハメハ産駒7世代目にして初の牡馬クラシック制覇という記念すべき勝利でもあった。

そしてその次走、ついに歴史が塗り変わる。

ドゥラメンテがダービーを制覇し、二冠……そしてダービー父子制覇を達成。

このダービーでの走破タイムは2:23.2と、ディープインパクト・キングカメハメハが持つレコードを更新するものだった。

 

ドゥラメンテ(父:キングカメハメハ、母:アドマイヤグルーヴ)

皐月賞・ダービー制覇

リアルスティール(父:ディープインパクト、母:ラヴズオンリーミー)

ドバイG1ドバイターフ制覇

 

2頭のレジェンドが持つ記録を塗り替えた新ダービー馬・ドゥラメンテの誕生に湧いた翌年のクラシック路線は、3歳となる年明け時点では、年末に現れた2頭の馬が中心のように考えられていた。

朝日FSを制覇し2歳王者に輝いたリオンディーズ。

その朝日FSで単勝1倍台に支持されながらも2着に敗れ、雪辱を誓うエアスピネル。

2頭の父はキングカメハメハで、2年連続の牡馬クラシック制覇が期待された。

しかし皐月賞本番、その2頭は4,5着に敗れる。

皐月賞で上位3着までを独占し「ダービーも三強」という評価を得たのはディーマジェスティ、マカヒキ、サトノダイヤモンドという3頭のディープインパクト産駒だった。

 

そして世代頂点を争うダービーでもまた、ディープインパクト産駒3頭が上位3着までを独占。

リオンディーズ・エアスピネルはまたしても4,5着に敗れることとなった。

秋の菊花賞でもサトノダイヤモンドが勝利し、その年のクラシックは3頭のディープインパクト産駒同士で順番に勝ち星を譲り合うという、圧倒的な結果に終わる。「ディープインパクト産駒による同一年度の三冠達成」は、ディープインパクトの強大さを示すには十分だった。

 

マカヒキ(父:ディープインパクト、母:ウィキウィキ)

東京優駿制覇

リオンディーズ(父:キングカメハメハ、母:シーザリオ)

最優秀2歳牡馬(2015年)

 

そのリベンジを果たすかのように、翌年はキングカメハメハ産駒のレイデオロがダービー馬となる。

しかしその血統表を見ると、曽祖母にディープインパクトの母であるウインドインハーヘアの名前が並んでいるように、まさにディープインパクト血統とキングカメハメハ血統の融合を感じさせる1頭でもあった。

 

さらに翌年のダービー馬にはディープインパクト産駒のワグネリアンが輝くが、こちらも「父ディープインパクト」「母の父キングカメハメハ」という血統を持つ馬。その年の菊花賞を制覇したルーラーシップ産駒のキセキは「父の父キングカメハメハ」「母の父ディープインパクト」という血統。

2頭の血統が次第に混ざり合いながら、クラシックを席巻していた。

 

同時に、菊花賞馬キセキの父がキングカメハメハ産駒のルーラーシップであるように、キングカメハメハ後継種牡馬の躍動が目立ち始めた。

ワグネリアンがダービー制覇をした2018年クラシックの牝馬路線は、アーモンドアイの登場により、まさに「一強」体制となる。キングカメハメハを父に持つロードカナロア産駒が、ジェンティルドンナ以来久々となる三冠牝馬に輝いたのだ。

 

アーモンドアイ(父:ロードカナロア、母:フサイチパンドラ)

牝馬三冠、年度代表馬(2018年)など

 

迎えた翌年のクラシック。

「平成最後の皐月賞」を制覇したのは、またしてもロードカナロア産駒のサートゥルナーリアだった。

種付け数を抑えるようになっていたキングカメハメハは、後継であるルーラーシップ・ロードカナロアが躍動。どちらもキングカメハメハの強みである「サンデーサイレンスなし」の血統表を持つ種牡馬として、父の配合相手をも譲り受ける形で地盤を固めていた。

サートゥルナーリアは皐月賞の快勝っぷりから「ダービー制覇は間違いない」との見方が多く、ダービーでの単勝オッズは1.6倍。2番人気のヴェロックスも新種牡馬ジャスタウェイの産駒であり、世代交代の趣が強い一戦になる──はずだった。

 

しかし結果は、ディープインパクト産駒ロジャーバローズのレコード勝ち。

 

2着もディープ産駒のダノンキングリーと、種牡馬ディープインパクトが改めて存在感を示す結果となった。

振り返れば、桜花賞馬はグランアレグリア、オークス馬はラヴズオンリーユーと、どちらもディープインパクト産駒。

「なんだ、これからもディープインパクトの時代は続くんだ」

そう思わせてくれた、矢先の出来事だった。

 

2019年7月9日、キングカメハメハ種牡馬引退。

2019年7月30日、ディープインパクト死亡。

2019年8月10日、キングカメハメハ死亡。

 

こんなに立て続けに──そう思わずにはいられなかった。

2頭のライバルは、世代を経て血を混ざり合わせながら進化を続けてきた。

そんな2頭だからこそ、なのだろうか。惹かれ合うように、ともに天へと昇っていった。

まるで、令和の時代は他の世代に任せたと言わんばかりに。

 

しかし、新たな芽吹きもある。

ディープインパクトの初年度産駒であるリアルインパクト。その初年度産駒が令和にデビューを迎えると、6,7月で5勝の快進撃をみせた。同じく2019年に初年度産駒がデビューした父ディープのダービー馬・キズナも、6,7月で5勝をあげたばかりか、最初の世代重賞函館2歳Sをビアンフェが制覇。

その2頭の後継種牡馬の躍進を見届けるようにして、ディープインパクトはこの世を去った。

8月6日にはロジャーバローズが屈腱炎による緊急引退で、種牡馬となることが決定している。

キングカメハメハ系の活躍も、同様に心強い。秋にはサートゥルナーリアがリベンジを狙っているし、キセキの凱旋門賞遠征も決まっている。

 

どの馬も非常に素質ある馬で、彼らの血を残していく可能性を大いに感じさせてくれる。

令和の時代を築き上げていく軸となる馬は、まだ私たちにはわからない。

けれど、その資格を持つ馬が次々と登場する今の日本競馬界が、楽しみでならないのだ。

きっと彼らも、天から楽しみに見つめてくれていることだろう。

ありがとう、キングカメハメハ、そしてディープインパクト。

 

 

キングカメハメハ

(父:Kingmambo、母:マンファス)

 

 

 

 

 

 

文・葵ゆう子

写真・Horse Memorys、がんぐろちゃん