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[重賞回顧]第36回フェアリーS(GⅢ)~寒風にも負けず~

 

船橋市古作は下総台地が立ち上がるところにある。

JR西船橋駅より南は東京湾に面した低地が広がるが、反対側の北は分厚い関東ローム層が作る台地になる。松戸へと広がる下総台地と湾口部の低地との境界上に立地するのが中山競馬場。南北に立つスタンドに対し馬場は東側、パドックは西側にあり、冬は下総台地の北西からなめるように吹く風に馬場がさらされる。ことさらスタンドの日陰に入る午後は体感温度を一段と下げる。

暖冬ではあっても冬の中山はそんなに優しくはない。そんな厳しい状況下で少女たちの桜への一歩がはじまる。

 

フェアリーS。

2勝馬4頭1勝馬12頭。勝てば即桜花賞候補とは行かないが、重賞タイトルにあわせ賞金を加算し、春へと前進する戦いに挑むレースだ。

アヌラーダプラ、シャインガーネット、スマイルカナ、ペコリーノロマーノの2勝馬とダイワスカーレットの娘ダイワクンナナ、札幌で強い勝ち方をしたポレンティア、チェーンオブラブら上位人気は拮抗。クラシックは勝たなければ進めないトーナメント戦のようなもの。抜け出すごとに春は近づいてくる。

 

スマイルカナは我先に混戦を抜け出さんとばかりの好スタート。一完歩目で後続に2、3馬身も差をつける猛ダッシュだった。これでは競ろうとする馬は出てこない。先行争いを一切寄せつけなかったスマイルカナは気分よく中山の向正面へ入る。

2番手は内枠を利したダイワクンナナ、外からダッシュを効かせたシャインガーネットが外につけ、ペコリーノロマーノがそれらの背後をとる。その一列後ろで馬群の外にアヌラーダプラ。チェーンオブラブはウィーンソナタとウインドラブリーナに挟まれている。

離されては追いつけない、春へ進む馬群はまさに一団となって進む。

 

先頭のスマイルカナの前半800mは47秒0のマイペース。ダイワクンナナやシャインガーネットもそのまま逃がすまいと早々と差を詰めにかかる。しかし、直線入口から坂下にかけてスマイルカナが一気にスパート、追いすがる後続を突き放した。追うシャインガーネット、それを馬群から抜けて追いすがるポレンティア。さらに後ろから大外を一気に突っ込んでくるチェーンオブラブ。これら攻防を背にスマイルカナはゴールまで脚色鈍ることなく逃げ切った。2着はチェーンオブラブ、3着ポレンティア。勝ち時計は1分34秒0(良)。

 

 

 

■各馬短評

1着スマイルカナ(3番人気)

圧倒するスタートダッシュは勝利に大きく貢献したものだったが、目を見張るのは4角から坂下にかけての残り400~200mだった。11秒2というラップを刻み、そこで勝負あったという印象だ。単なる逃げ馬ではない。力のいる馬場で瞬発力まで繰り出されては後続はなす術なしも仕方なし。スマイルカナは岡田総帥にとって今まで良縁に恵まれなかったディープインパクト産駒。瞬発力は総帥とディープインパクトとの間に新たな縁が生まれた証ではないだろうか。柴田大知騎手×岡田総帥×ディープインパクト=スマイルカナは桜花賞戦線でも注目したい。

 

2着チェーンオブラブ(7番人気)

最後は猛烈な末脚で2着。道中は馬群に入り、3頭並走の真ん中に入るような場面もある厳しい競馬。一歩引きながらも終いの爆発力は目を見張るものがあった。経験を積み、馬群でもしっかり競馬ができれば2勝目は近いだろう。

 

3着ポレンティア(5番人気)

先行集団の背後、馬群のインからの競馬。立ち回りが巧く、勝負所でも詰まるような場面はなくスムーズにスペースを抜け出してきた。ところが中山の急坂で脚が鈍るようなところもあり、経験値の差が出たようだ。この敗戦で積んだ経験を次へいかしたい。

 

 

■総評

下総台地をなめるように吹く風はいずれ春の訪れを知らせる海風へと変わる。東から吹く風は台地の縁をもろともせずに駆けあげる力強さで季節を瞬く間に春へ進める。東風に乗って西へ進むだろうスマイルカナは仁川の桜を我がものとできるだろうか。フェアリーS1分34秒0は近年でも出色の記録であり、なによりそれを自らの力で刻み込んだことに価値はある。はたして女王レシステンシアの鼻を明かす馬となれるだろうか。

スマイルカナと寒風に阻まれた形となった2着以下の馬たちのなかからは、いずれ東風に乗るような馬が出てくるかもしれない。クラシックはトーナメント戦のようだが、そう単純ではない。負けた組からも復活してくる馬が必ず出てくる。次に寒風を突き破る馬はどの馬だろうか。まだまだ春への道は長い。

 

 

文・勝木淳

写真・とら

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