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[重賞回顧]第36回ホープフルステークス(GⅠ)~よろこびの歌~

ベートーヴェン作曲の交響曲第9番、通称第9は彼が最後に作曲した交響曲である。シラーの詞「歓喜に寄す」に曲をつけるという構想は彼が20代前半のころに抱いたものといわれており、その作曲家人生の原点であり集大成であったとされる。第9の第4楽章は「よろこびの歌」として世界中で年の終わりを告げる風物詩となっている。
その起源は第一次世界大戦終結の1918年12月31日。ドイツの小さな村で明くる年の平和への祈りとして演奏、合唱されたところからきている。
日本で年末に「よろこびの歌」が演奏、合唱されたのは戦後まもなくの1940年代。ドイツと同じく平和への願いと誓いの象徴だった。
年の瀬はいつも慌ただしい。やり残したこと、やらなければいけないことなどで頭の中はいっぱいだが、第9第4楽章「よろこびの歌」を聞きながら、1年を振り返り、来年の平和に祈りを捧げる時間も作っておきたい。
 
JRA最後のGⅠはホープフルS。2歳馬による翌年のクラシック戦線への希望をかけた一戦だ。去るものへの惜別を胸にする有馬記念の翌週に来年へ思いを馳せるホープフル。来年はスケジュールが逆になるが、こんな順番も悪くはない。
 
コントレイルはハーツクライ産駒優勢の世代においてディープインパクト産駒の筆頭格。東京スポーツ杯の時計1分44秒5、上がり600m33秒1は圧巻のひとこと。産駒があまり得意ではない中山芝2000mという舞台への適応がカギだった。
勢いに乗るハーツクライ産駒ではワーケアがエントリー。アイビーSの時計はコントレイルに見劣るが、上がり600m33秒3の末脚では一歩も譲らない。
そして、舞台となる中山、それも暮れの中山で輝くのがステイゴールド一族。ドリームジャーニーの子ヴェルトライゼンデ、オルフェーヴル産駒オーソリティ、そして新種牡馬ゴールドシップが送るブラックホールと一族らしい個性派が揃って出走してきた。
 
逃げ候補がいなかったレースを引っ張ったのは坂井瑠星とパンサラッサ。見事な冬晴れと傾きはじめた太陽の下を背後を振り返りもせずに駆けていく。外からじわりとそれを追うラインベックが2番手、その内に控えるブルーミングスカイ。この3頭が後ろを離しながら1、2角を回る。離れた4番手にコントレイルがあがる。中団だった東京スポーツ杯とは違い、中山コースを意識した積極的な位置をとる器用さを見せ、同時に前を追いかけようと行きたがる素振り、若さも表現する。そのコントレイルの直後に忍び寄るヴェルトライゼンデとブラックホール、さらに後ろにワーケアとオーソリティが続く。
パンサラッサの1000m通過は60秒9。向正面で前にいる3頭とコントレイル率いる馬群との差は徐々に縮まっていく。12秒1-12秒0と後続の仕掛けに反応しラップを落とさないパンサラッサの逃げ。番手にいたラインベックの手応えが悪くなり、外からコントレイルが唸るように上がってくる。マークしていた組からヴェルトライゼンデが反応する。
4角から直線にかけてコントレイルが一気にパンサラッサを捕らえて先頭に立つ。追うヴェルトライゼンデ、オーソリティ、さらに外から遅れてワーケアが来る。抜け出したコントレイルは先頭に立つと、道中で見せたような若さを戸惑っているかのような、遊ぶような仕草で再び発露させる。最後の1ハロン12秒5は苦しいわけではなく、本気を出していないが故の記録。そこをヴェルトライゼンデが全力で差を詰めるも及ばなかった。勝ち時計は2分1秒4(良)。
 

■各馬短評

1着コントレイル(1番人気)
中山芝2000mへの適性が問われたレースで一発回答。スタートを決めて4番手で我慢し、にじり寄るように先行馬との差を詰め、コーナーで加速して射程圏内に入れて捕らえる。まさに理想的な競馬だった。道中の前を追いかける素振りも、抜け出して遊ぶような仕草も伸びしろを感じさせるもので、クラシック第一冠皐月賞を自ら引き寄せるような内容だった。
 
2着ヴェルトライゼンデ(3番人気)
オイシン・マーフィー騎手が相手はコントレイルのみという決め打ちをしたような競馬。こちらも理想的にその背後をうかがうような展開も勝負どころで突き放されてしまった。ドリームジャーニー産駒らしくコーナーでスムーズに加速しての結果だけに対コントレイルという意味では地力強化という課題が見つかった一戦。本番は4か月後。どこまでこの差を詰められるか注目したい。
 
3着ワーケア(2番人気)
ハーツクライ産駒らしい加速の遅れが結果となった印象。器用な走りではないことに加え、4角でバテた先行馬を交わすのにスペースを失うような場面もあった。エンジンのかかりの遅さとさばきに戸惑う場面はリンクするもので、ハーツクライ産駒の若馬特有の現象。言い換えれば、リスグラシューのような成長力を残している証。完成度では上位に見劣るが、底知れぬ成長力を武器にその差を詰めてくるだろう。
 

■総評

年の終わりに2歳馬たちが奏でる希望の調べはまさに人々が未来を願う「よろこびの歌」。この世代のクラシック戦線が開幕する2020年はどんな競馬と出会うだろうか。未来に馳せ、未来を考え、未来を予想する、競馬ファンが大好きな未来予想図はファン一人ひとりのもの。年末はぜひとも「よろこびの歌」を聴きながら、未来に希望を抱いてほしい。叶うか叶わないかは関係ない。心に抱く希望こそが生きる道標になるのだから。

文・勝木淳

写真・shin 1

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