· 

[重賞回顧]第39回ジャパンカップ(GⅠ)~ハーツクライは二度、覚醒する~

 

国際招待レースであるジャパンカップの存在意義が問われている。好走は13年前のウィジャボード(3着、勝ち馬はディープインパクト)が最後であり、今年はついに海外からの出走馬が途絶えてしまった。

 

やや暗くなる話題の一方で、今年はジョッキーの国際色がより豊かだった。

 

英国の名門ジョン・ゴスデン厩舎の主戦騎手を務めるランフランコ・デットーリ騎手が来日。ルックトゥワイスに騎乗する。

 

クリストフ・スミヨン騎手はかつてアガ・カーン殿下の主戦も務めた仏国を代表する名手。ジャパンカップではシュヴァルグランに乗る。

 

デットーリ騎手やスミヨン騎手よりも日本で活躍しているライアン・ムーア騎手。愛国の名門エイダン・オブライエン厩舎の主戦という絶対的な地位。日本の若手には彼を目標する騎手も多い。今回はジナンボーとコンビを組む。

 

さらにこの3人より若い世代にあたるウィリアム・ビュイック騎手は、ゴドルフィンと専属契約を結ぶスゴ腕。ゴドルフィンの悲願であったエプソムダービー制覇をプレゼントするなど信頼度は抜群。ジャパンカップの騎乗馬はレイデオロだ。

 

今年、日本でもっとも名前を売ったのはオイシン・マーフィー騎手。冬に初来日を果たした彼はディアドラの欧州遠征のパートナーを務める一方、カタールレーシングの主戦騎手として英国リーディングを獲得するなど、目覚ましい活躍を遂げる世界の次世代ナンバーワンジョッキー。スワーヴリチャードとコンビを組む。

 

ジョン・ゴスデン、アガ・カーン殿下、エイダン・オブライエン、ゴドルフィン、カタールレーシング、世界的なビッグネームと直接的な関わりを持つジョッキーが参加する。これだけでも国際GⅠにふさわしい顔ぶれではないか。

 

異例といえば、重馬場での施行は16年ぶりのこと。過去15回連続で良馬場だったように、晩秋の東京は冬の入り口であり、雨が少ない乾燥しがちな季節。前々日から降り続く雨は東京競馬場の芝コースを不良馬場へと悪化させた。ジャパンカップは重馬場発表だが、前日から極悪馬場で多く芝コースを使用したため、かなり厳しい状態で行われることとなった。

 

あらゆる異例が重なったジャパンカップのスタートは一斉の飛び出しから始まった。

日本でもっとも世界を知る男・武豊騎手はマカヒキをすーっと最後方に下げた。

 

レース前の宣言どおり石橋脩騎手とダイワキャグニーがハナに立ち、1角をインから抜けてきた津村明秀騎手とカレンブーケドールがラチ沿いの番手集団に加わる。外から松若風馬騎手とダンビュライトが追いあげ、その間に田辺裕信騎手とウインテンダネスが入る。直後も離されずに馬群を形成。川田将雅騎手とワグネリアンが先行、外に横山典弘騎手とエタリオウが並ぶ。ワグネリアンの直後に、マーフィー騎手とスワーヴリチャード、外にスミヨン騎手とシュヴァルグランが追走。ムーア騎手とジナンボーが外から動く。その内にビュイック騎手とレイデオロ、クリストフ・ルメール騎手とムイトオブリガードがじっと構える。

 

ここまでが大きな集団を形成。名手揃いのジャパンカップらしく先行への意識の強さが表われているようだ。

そうは言いつつ、レースは決してスローペースではない。この馬場で1000m通過60秒3はタフな流れだ。

 

厳しい流れに岩田康誠騎手とユーキャンスマイル、デットーリ騎手とルックトゥワイス、ミルコ・デムーロ騎手とタイセイトレイル、マカヒキは後方で流れがやってくるのを待つ。

 

後半は失速こそしないが、加速もできない、厳しい12秒前半のスタミナを問うような流れが続く。そうはいっても中距離のチャンピオンクラスであれば、いつもなら馬なりで追走できるようなラップタイム。ところが、大きな芝の塊が飛び散るなか、4角手前ではどの馬の騎手も激しく手綱を押しつづける。手応えで上回る馬など存在しない。東京競馬場の馬場が各馬のスタミナを削りだす。

 

レースを引っ張るダイワキャグニーは東京巧者、厳しい流れでも簡単には止まらない。終始直後のインコースにいたカレンブーケドールが外に出されてダイワキャグニーを追いかける。さらに直後にいたスワーヴリチャードが前2頭の間から追いあげる。

 

残り400m(12秒2)。

カレンブーケドールは自身とダイワキャグニーの間に入ってきたスワーヴリチャードに馬体を寄せながら進路を消しにかかる。それを察知したマーフィー騎手は素早く反応、進路がなくなる前にラチ沿いに活路を求める。

この攻防の外からワグネリアン、後方待機のユーキャンスマイルが追いかけるも、脚色では上回ることができない。スタミナを削りとられた馬たちはどの馬も脚色が同じになっていく。ダイワキャグニーとラチの間からスワーヴリチャードがわずかに抜ける。外にいたカレンブーケドールはスワーヴリチャードを逃すまいと寄りながら追いすがる。

 

あと200m(12秒6)。

勝負はスワーヴリチャードとカレンブーケドールの一騎打ち。ワグネリアンも懸命に走るが、この2頭とは脚色が揃い、差を詰められない。もう一度カレンブーケドールがスワーヴリチャードに迫る。それを振り切らんとするスワーヴリチャード。この攻防も徐々に脚色が揃いだす。

 

同じ脚色同士の我慢比べは普段目にする東京競馬場のゴール前とは異なる世界だ。それはゴールまで続き、スワーヴリチャードが3/4馬身だけカレンブーケドールを凌ぎきった。3着はワグネリアン。勝ちタイム2分25秒9(重)。

 

 

■各馬短評

1着スワーヴリチャード(3番人気)

昨年の大阪杯以来のGⅠタイトルを掴んだ。思えば、レイデオロの2着になった日本ダービーと同じようなインにこだわったレースとなった。スローの良馬場だった日本ダービーとは異次元といえる馬場で同じレースを展開、きっちり先頭で駆け抜けた。極悪馬場のラチ沿いという厳しいポジションながら諦めずに走った馬の根性を褒めたい。

 

2着カレンブーケドール(5番人気)

3歳牝馬でこの馬場状態ながら最後までスワーヴリチャードを追う姿は頭が下がる思いがする。3年連続上位に来ている1枠1番もこの馬場では必ずしもいい条件とはいえなかったが、スタートからセンスよく番手のインに行き、理想的なレースを展開するあたり、津村騎手と手が合う証拠でもある。早めに動いたオークスといい、東京2400mで最後まで走りきれる豊富なスタミナを今後も生かし、タイトルをつかみたいところだ。

 

3着ワグネリアン(1番人気)

後方に控えた天皇賞(秋)とは一転、日本ダービーを勝ったときのような先行策から勝ちに行く競馬を展開。馬場に泣かされた印象もあり、最後は上位馬と脚色が同じになってしまった。決して理想的な条件、流れではないにもかかわらず3着確保は力の証明。日本ダービー馬の活躍は今後もこの路線をさらに盛りあげるためにも必要不可欠。そういった意味では徐々に光明を見出す結果だった。

 

 

■総評

 

近年にない厳しい条件下で行われたジャパンカップは、ハーツクライの底力が引き立つ結果となった。ディープインパクト産駒になくハーツクライ産駒にあるもの。それは覚醒である。それも2度だ。勝ったスワーヴリチャードは2歳から活躍、3歳では日本ダービー2着、アルゼンチン共和国杯勝ち、4歳春には大阪杯も勝った。能力を早いうちから発揮しながらも、その後はGⅠでもGⅡでも掲示板以上は来るが、勝ちきれない競馬が続いた。どうにも歯がゆい結果ばかりが続くが、それを突如として大仕事でひっくり返す。スワーヴリチャードのジャパンカップはその典型。ハーツクライの2度目の覚醒だった。振り返ってみてもハーツクライ自身がそうだった。日本ダービー2着から歯がゆい競馬を続け、ジャパンカップでアルカセットの2着、そこから有馬記念でディープインパクトに国内唯一の黒星をつけ、ドバイシーマクラシックを勝つ。ハーツクライの2度目の覚醒。

ジャスタウェイもシュヴァルグランももどかしい競馬を続けながら、突然目を覚ました。安定感と物足りなさを我々に思い知らせておいて、大爆発する。それがハーツクライの真骨頂。底力が問われる厳しい状況設定がスワーヴリチャードのなかで眠っていた力を引き出したのだろう。

そして、トニービンとサンデーサイレンスの血を内包するハーツクライらしく、2度目の覚醒、その多くは東京競馬場で起こる。

 

文・勝木淳

写真・かぼす

■関連記事