「地元」にJBCがやって来た〜金沢競馬場の特別な日〜

私が、金沢競馬のフリーペーパー「遊駿+」を発行し始めた頃、金沢競馬のホースマン達が集まって酒を酌み交わすと大抵が「どうやったら金沢競馬にお客さんを呼び込めるか」という話が持ち上がりました。

「あんなイベントをしたらどうだろう」

「こんな人を招いてライブでもしてもらったら、たくさん来るのではないか」

──酒の勢いに任せて様々な方策が出る中、毎回必ずと言っていいほど出てくる案がありました。

 

「JBCを、金沢に呼ぼう」

 

そして、この案が出てくると必ず次の言葉が続きます。

 

「……ま、来る訳ないけどな」

 

あの時、いい酒の肴としての話題でしかなかったJBC。

金沢に来る事なんて、冗談の一つでしか思えなかったJBC。

それが2013年、本当に金沢で行われる事になりました。

しかも、史上初となる「JpnIを1日3レース行う」という、さらにパワーアップした姿で。

 

 

2013年頃の金沢競馬の状況はと言えば……2009年度から2011年度まで3年連続の赤字。赤字幅は圧縮されつつありましたが、それは賞金を削ったり、老朽化した設備の更新を先送りしたりといった、涙ぐましい努力の結果によるもの。売り上げが劇的に伸びたと言う訳ではありませんでした。

 

ファンから見ても「空雑巾絞ってるな……」と分かる程度の緊縮開催が続いて、2012年度は収支はほぼ均衡。

しかしまだ「赤字」とか「存廃」とかそういった危機感のある言葉がくすぶっていました。

 

そんな中での、JBC開催。

主催者側の持ち出しも多いと聞き、賞金も白山大賞典何回分だと言うほどの高額賞金。しかも、3レース。

それを払ってまでペイできる売り上げあるのか……?

お客さんは金沢まで来てくれるのか……?

当時は北陸新幹線は開業前だけに、不安は大きなものでした。

さらに、JpnⅡ以上のレースを開催した事のない競馬場でJBCを開催する事も史上初(2019年開催の浦和を含めても唯一の例)。

 

この老朽化したスタンドで全国から押し寄せるお客さんに対応できるのか、馬券売り場は足りるのか。

開催が決まってからは、期待以上に心配していた事が多かったように感じました。

 

 

しかし、白山大賞典が終わる頃、JBCに向けた装飾や宣伝が賑わい、馬券売り場が増設されると、心配や不安ごとは一旦置いておいて「とにかくこの一生に一度あるかどうかというお祭りを楽しもう!」と言う雰囲気が増していったように感じました。

「遊駿+」も今まで以上にインタビュー(と言う名の飲み会?)をして記事を書き、JBC号を制作。

いつもは場内だけの配布をしている「遊駿+」ですが、この時はJBCの宣伝に使えると考えたのか全国配布にするとの話になり、いつも以上の数を刷りました。

 

全国って言ってもせいぜい東海と南関位だけでだろう……そう思っていたら門別で入手したと言う話を聞いて、本当の意味での全国だったのかと驚いた思い出があります。

 

JBCが近づいて、中央からの出走馬の情報も流れてきました。

 

レディスクラシックにはメーデイア、サマリーズ、キモンレッド、アクティビューティ、トシキャンディ。

スプリントにはエスポワールシチー、タイセイレジェンド、セイクリムズン、テスタマッタ、ドリームバレンチノ。

クラシックにはホッコータルマエ、ワンダーアキュート、クリソライト、ハタノヴァンクール、ソリタリーキング。

 

テレビや新聞でしか見た事がないGIホースや重賞馬達が大挙してやってくる。

さらに騎手も武豊騎手にデムーロ騎手、岩田康誠騎手、後藤浩輝騎手、幸英明騎手、浜中俊騎手など、白山大賞典でも数年に一回来てくれるかどうかと言うトップジョッキーがわんさかやってくる。

 

事前の情報だけでも胸が高鳴り、期待でふわふわと夢心地となっていました。

正直なところ、他の地方馬や地元馬で誰が出るかよりも、中央の超一線級の馬と超一流の騎手達がどんなレースを見せてくれるのかに期待している自分がいました。

 

──そして。

 

地元の、例年はJpnⅢしか行われない競馬場で、JpnIが3回行われる……冗談のような1日、11月4日が本当にやってきました。

 

 

前日まで結構激しい冷たい雨が降りしきっていましたが、当日は朝から青空が見えるほどに天候は回復。

11月の北陸の気候と前日夜までの雨で肌寒い中、自転車で競馬場へ向かいました。

 

たくさんの驚きがあるであろう1日。

たくさんの興奮が待っているであろう1日。

とにかく特別な1日──。

 

様々な期待と興奮をない交ぜにしながら、ペダルを軽快にこいでいきました。

競馬場に入って新聞を買い、ちょうどゴール板のあたりを歩いていると、この日最初の驚きが待っていました。

 

「よう」

 

1レース前とは思えない人波の中、誰かに声をかけられました。振り返るとそこには小学、中学時代の同級生が、家族連れで立っていました。

「あれ、こいつって競馬好きだっけ?」

競馬場で見かけた事もないし、そもそも競馬やってると聞いた事がない……。

 

「え、どうしたん?」

思わず、どうしているんだと聞かんばかりの調子で聞きました。

すると同級生はにかっと笑って答えます。

 

「なんか、祭りみたいやから、来てみたわ」

 

その答えを聞いた瞬間、はっとしました。

 

競馬場にどうやったらお客さんが来るのだろう。数年前、酒の席で散々話した話題。その答えが、そこにありました。

 

 

 

競馬場に人を呼ぶには楽しいイベントも大事だけど、やっぱり競馬なんだ。

その最適解のひとつがJBCなんだ、と。

 

競馬を知らない人も、なんだかわかんないけどとにかく凄い事が金沢競馬場で行われる。

テレビに出ている「武豊」がやってくるって。じゃ、行ってみようか。なんか、楽しそうだし。

 

競馬場に足を運ばせる大きなきっかけになるのが大レース。金沢のようなJpnⅡも行われないような競馬場でそれを行える、恐らく唯一の手段がJBC。

ひょっとすると今、目の前の行われようとしているJBCが一番JBCらしいJBCなのかもしれない。

今まで見た事ないようなデコレートされたゴール板を見ながら、そう思いました。

 

……なんて、小難しい事はさておいて。

せっかく晴れた晴れ舞台。

ここにいる1人のファンである僕は思いました。

「この金沢の1日、思う存分楽しんでやるぞ」と。

 

文と写真・ヨドノミチ

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遊駿+#26 金沢JBC号
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