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百万石の名馬〜百万石賞とジャングルスマイル〜

 

金沢競馬には「四大重賞」と呼ばれる、歴史と格式のある重賞がある。

百万石賞・白山大賞典・北國王冠・中日杯の4重賞が、それにあたる。

 

上半期最高の重賞、百万石賞(2100m)。

唯一の統一重賞、白山大賞典(2100m)。

全国屈指の最長距離重賞、北國王冠(2600m)。

真冬の金沢最終重賞、中日杯(2000m)。

 

チャンピオンディスタンスに長丁場……ともすれば時代遅れなのかもしれないが、歴史を感じさせるラインナップだ。

これでも北國王冠以外は2014年から距離短縮されている。以前、百万石賞と中日杯は2300mだった(同時に北國王冠も2300mに短縮されたが翌年2600mに戻された)。

 

その「四大重賞」のひとつ、百万石賞は6月に行われ、上半期最も盛り上がる重賞だ。

毎年、金沢競馬場はこのレースの前に行われる金沢市最大のお祭り「百万石まつり」に合わせて提灯が並び、さらには百万石まつりのメインイベント「百万石行列」で使用された甲冑を誘導馬の騎手が装着して誘導するなど、競馬以外にも様々なイベントも行われる。

 

百万石賞の誘導馬

 

肝心の競馬の方は、上半期唯一の大きな重賞であると言う事で、金沢競馬の上位クラスはほとんどここを目標に調整し、出走してくる。

その為に毎年概ねフルゲートになり、フルゲート割れになったとしても金沢のほぼベストメンバーと言える面々が集う。レース的にも非常にハイレベルで、予想はもちろん、見るだけでもわくわくする。

JRAで言う所の天皇賞(春)のような位置付けになるのではないかと、勝手に思っている。

 

そんな百万石賞は、2019年で62回を迎える。

その長い歴史を語る上で、思い出される一頭の名馬がいる。

 

82戦39勝、重賞11勝。白山大賞典2着、JBCクラシック4着。

JRAで未勝利戦二桁着順連発から積み上げたこの実績、金沢競馬最強馬とも言われたその馬。

 

──その名を、ジャングルスマイルと言う。

 

2013年百万石賞

 

このジャングルスマイル……初の重賞が百万石賞だったからなのか、とにかく百万石賞に強い馬だった。

どれだけ強いかと言うと、現役生活で百万石賞に6回出走してその成績が、以下の通りなのである。

 

【5,1,0,0】

 

同一重賞に6回出走するだけでもとんでもない事だが、その結果が5勝で連対率100%と言うとんでもない数字だ。

この5勝は吉原寛人、平瀬城久、田知弘久という3人の「様々なタイプの騎手」とコンビを組んであげたもの。同一重賞を様々な騎手で勝つと言うのもジャングルスマイルのすごい所だろう。

百万石賞が行われていた2300mでのジャンクルスマイルの実績は【4,5,1,0】。元々相性の良い条件だったということも言えそうだが、百万石賞の5勝目は距離短縮された2100m戦での勝利で、これが唯一の2100mの勝利でもある。

これはもう騎手どうこう、距離どうこうと言うよりも「百万石賞に愛された結果」と言えるのではないか。

 

ちなみに唯一の2着は2013年に鎬を削っていたナムラダイキチが勝ったものだった。

前年に白山大賞典2着、金沢の重賞4連勝中、5歳で脂の乗り切ったナムラダイキチレベルでないと百万石賞のジャングルスマイルを止められなかったのだ。

 

さらには同距離だった中日杯でのジャングルスマイルは【1,5,0,0】と、まるで逆の戦績だったというのも興味深い。

余りにも勝てないので管理する金田一昌調教師が購読する新聞を北國新聞から中日新聞に変えた……と言う逸話もあるくらいに、なぜか百万石賞とは対照的に中日杯は勝てなかった。

そして、変えた途端に初めて勝利したという。

 

2015年百万石賞

 

このように百万石賞に愛されたを通り越して溺愛されたと言えそうなジャングルスマイルの5勝。

「この中で一番印象深い物は?」と聞かれると、どれもいいレースで迷う。

 

金沢の大将格、ビッグドンを大差でちぎって世代交代を印象付けた2010年の初重賞。

2着に2秒9差をつけて圧勝した翌年の2勝目。

ナムラダイキチに中日杯、金沢スプリングCの借りをきっちり返して三連覇した3勝目。

故障からの復活を狙うナムラダイキチを退けた4勝目。

 

どれも印象深いが──驚愕と喜びに包まれた2016年の5勝目が、やはり特に印象深いと思う。

前年の北國王冠を勝つが同年移籍してきたグルームアイランドに中日杯で7馬身ちぎられ、年明けの川崎の報知オールスターCで7着。

そして、金沢競馬が開幕して走った平場3戦が3着、2着、5着。

金沢の大将格とは言えもう10歳。平場も勝ち切れずでさすがにもう終わった、無理だろう。ファンの間にはそんな空気が流れた。

 

そうして迎えた百万石賞。

グルームアイランド、ナムラダイキチと年下の強力ライバルが揃い、連勝中のトウショウプライド、バルタンセージの新興勢力も揃う強力メンバー。

その上この年から2300mから実績が【0,1,0,10】という苦手の2100m戦に距離短縮。

ジャングルスマイルが9頭中の6番人気、金沢限定の重賞における、彼の生涯「最低人気」になるのも致し方ない状況だった。

 

しかし、百万石賞から愛された彼は、そんなファンの気持ちを裏切って見せた。

 

スタートから逃げるトウショウプライドを見る二番手の位置取り。結果の出なかった三連敗の時はこの位置取りが取れずに差し届かずと言う競馬だったのとは一転して前へ前へ。

──とにかく強かった頃のジャングルスマイルの走りができている。

その場にいたファンはそう思ったに違いない。

2周目の向こう正面に入るとジャングルスマイルは動きだし、先頭へ。トウショウプライドは二番手に下がるも引き離されずに追走。

最後の直線に入って引き離しにかかるジャングルスマイル、追いすがるトウショウプライド。そこに外からずっと四番手でレースを進めていたグルームアイランドがナムラダイキチを抜き去って猛然と追い込む。

しかし、追うジャングルスマイルとの差がなかなか縮まらない。いや、縮まってはいるが一気に抜けない、抜かせない。

そして、トウショウプライドに半馬身、グルームアイランドにそこからさらにクビの差をつけてジャングルスマイルは百万石賞のゴールを先頭で駆け抜けた。

 

2016年百万石賞

 

競走が終わった後に「もしも」と夢想する事は競馬ファンなら誰しもある事だろう。

この時、私は思った。

 

もしも、今年も2300mのままだったらあの差は逆転していたのではないだろうか。

 

この年、このタイミングでの距離短縮。ジャングルスマイルが勝つ為に百万石賞がその姿を変えさせた。

いや。本当に百万石賞に愛された彼だったら2300mでもハナ差になっても勝っていた。

色々と思いを巡らせられる百万石賞だった。

 

翌年、百万石賞6勝目(!)を目指して現役続行となったジャングルスマイルだったが、脚に故障を発生。年齢も考慮されて引退となった。

様々な記録と記憶を残した名馬ジャングルスマイルには引退式が用意された。

日取りは2017年6月11日。第60回百万石賞の当日。

既にイベントなどのタイムスケジュールが決まっている中、この日に引退式が行われるように関係者が相当に奔走したと聞く。

百万石賞に愛されたジャングルスマイル。

それ以上に関係者やファン、金沢競馬から愛された金沢の名馬だった。

 

引退式

 

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文・ヨドノミチ

写真・haruka、ヨドノミチ