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あの日、あの瞬間、みんなが夢を見た向こう正面〜第30回白山大賞典〜

地方、中央の猛者がぶつかり合うダートグレード競走。

中央勢が圧倒的な力を見せつける中で、地元勢・地方勢が一矢を報いてファンを歓喜で包み込む──それがダートグレードの大きな魅力の一つなのではないかと思う。

 

しかし、そんな魅力とずーっと無縁の競馬場がある。

 

1997年に最初のダートグレード競走の一つとして指定されたにも関わらず、地元勢どころか地方勢が一度も勝てていない競走を開催している競馬場。

 

それは、金沢競馬場。

レース名を白山大賞典と言う。

 

 

1997年のキョウトシチー以降、2007年に馬インフルエンザの影響で金沢所属馬限定となった時を除けば今日まで中央勢の21連覇中。

こんな現状であるから、地元ファンにとって『白山大賞典に出走する地元勢』は頑張って掲示板、あわよくば馬券圏内に……くらいの期待の人が多いのではないか。

 

「今年は勝てる!」どころか「うまくいけば勝てるんじゃない?」とすらも思えない。金沢が中央に馬場を貸してるだけ、なんて声すら聞こえてきそうだ。

 

だが、しかし。

 

そんな圧倒的な中央優位の中で「勝つんじゃない?」や「これ、勝てるぞ!」や「これは勝った!」と、高揚感に煽られた地元ファンが歓声を上げた年があった。

あの瞬間、金沢の地元ファンはほぼ全員、同じ夢を見た。自分の持っている馬券の事など忘れて歓声を上げた。

歓声を向けたのは、あの馬とあの人。

 

ジャングルスマイルと吉原寛人騎手である。

 

 

2010年。

この年の白山大賞典の下馬評は例年通りの中央勢有利だった。

 

ジャパンダートダービー2着、芝の重賞でも2着2回の経験がある芝砂兼用の3歳馬コスモファントム(現在は金沢大学の馬術部にいるとか)。

1000万下、準OPを連勝。勢いに乗る4歳馬パワーストラグル。

佐賀記念2着が光る5歳馬フサイチピージェイ。

東京大賞典3着、平安S1着と、中央勢唯一の重賞ウィナー、5歳馬ロールオブザダイス。

 

重賞馬は1頭のみのメンバーだが、それでも中央勢の4頭が強い。そこに金沢へ移籍してからこの白山大賞典まで14戦13勝2着1回のジャングルスマイルがどこまで食い下がるか。食い下がれるのか。

多くのファンの見方は、こんな感じだったように思う。

 

そして白山大賞典、当日。

当日の単勝オッズは中央勢が1番人気〜4番人気を占めて全て一桁倍率。ジャングルスマイルはそれに次ぐ地方馬最高の5番人気で21.9倍。

しかし、6番人気からは単勝万馬券になるので、彼に対してある程度の期待感は見られた。

そんな中、レース直前にちょっとしたハプニングが起きる。

朝から曇ったり晴れたりと不安定な天気だったが、レース直前に突如として強い雨が降り出したのだ。

その雨は2100mのスタート地点も霞む程の豪雨。あっという間に馬場の内も外も水が浮く。重馬場発表だが、実質不良馬場に見えた(実際最終レースから不良に変更となっている)。

 

何かが起きそうな予感が不意に漂いだす、雨の金沢競馬場。そして、白山大賞典がスタートした。

 

ゲートを飛び出て吉原騎手の腕に導かれてジャングルスマイルがハナを切る。

すぐ後ろをコスモファントムとパワーストラグルが追走し、その後にフサイチピージェイ、ロールオブザダイスが続く。

中央勢を従えての逃げ。

今までの白山大賞典では金沢の馬が一瞬でも先頭に立つ事などほぼなく、ジャングルスマイルが先頭のまま直線に入ってくるとスタンドはやんやの喝采に包まれた。

直線に別れを告げてコーナーから向こう正面へと向かう。

ジャングルスマイルのすぐ後ろを虎視眈々と追走。さあ、どこで先頭を捉えて前に出るか。

そう思ったその時、向こう正面に入ってから大きくレースが動く。

 

先頭を行くジャングルスマイルが加速、1馬身、2馬身と徐々に差を広げて単騎先頭、突き放しにかかった。

その瞬間、降りしきる雨音をかき消すような、スタンドが揺れるような歓声が上がった。

 

行ける!

このまま行ったら勝てる!

やったか!

 

その場にいたファンはほぼ全員、馬券そっちのけで地方馬初・金沢競馬初の白山大賞典制覇を夢見た。

向こう正面を走っている間、金沢のファンは確かにはっきりと、ジャングルスマイルが先頭でゴールを駆け抜ける夢に浸たり、大きな歓声を上げた。

 

しかし、向こう正面の終わり共にパワーストラグルにつかまり、あっという間に突き放されてファンは夢から覚めさせられる。

 

6馬身と言う現実を突きつけられて、ジャングルスマイルはゴール。

しかし、一杯になりながらもコスモファントム以下の中央勢から2着を死守したのは金沢最強馬としての意地だったのだろう。

 

その走りは十分に、次の夢を見させてくれそうな物だった。

 

 

あれから9年の時が経つ。

あの時みたいな夢を前にして自然に歓声を、JBCの時とは違った大歓声を上げるために今年もやってくる白山大賞典を迎える。

また夢を見て、それが叶う日を待ちわびながら。

 

 

……そして。

 

今でも吉原騎手に白山大賞典について話をすると、

 

「あの時は……勝ちたかったなあ……」

 

と悔しそうに振り返って呟く。

ひょっとして──。

あの向こう正面で誰よりも夢を見たのは吉原騎手、その人だったのかもしれない。

文と写真・ヨドノミチ

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