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関東オークス~白毛の女王、ユキチャン~

 

1.砂の三歳女王決定戦

 

湿気を帯びた風が、雨を呼ぶ6月。

JRAでは、春の牝馬クラシック路線に区切りがついたこの時期、地方競馬では一足遅れて、牝馬クラシック路線が佳境を迎えます。南関東牝馬三冠路線のラストを飾る、砂の3歳女王決定戦。6月中旬に、川崎競馬場で開催される関東オークス(JpnⅡ)です。

 

1965年に創設されたこのレースは、距離を1700mから2000mへ(1968年より)、さらに1998年より現行の2100mに延長しながら、長きにわたり地元ファンに親しまれてきました。

 

そんな歴史あるレースに転機が訪れたのは、創設より35年たった2000年のこと。

関東オークスは南関東所属馬だけでなく、他地区の地方競馬やJRA所属馬も出走できる交流競走に生まれ変わり、しかもGⅢという格付けがダート競走格付け委員会によって与えられたのです。

 

その結果、当然、関東オークスの注目度は高まります。3歳牝馬限定の大きなレースは限られるため、全国のダート巧者がここを目標に仕上げるようになりました。

さらに2003年、実施時期が5月中旬から6月中旬に変わったことで、その傾向が一層強くなります。

実施が一ヶ月遅くなったことで、芝のクラシック路線を走った素質馬がJRAから参戦するようになったのです。

 

こうして出走馬のレベルが上がり、より面白いレースになった結果、2006年に関東オークスはGⅡへと格上げされます。

2007年からはICSC(国際セリ名簿基準委員会)の統一表記であるJpnⅡに変更され、世界に認められた重賞レースとなりました。

 

 

さらに3年後の2010年。『GRANDAME-JAPAN』という地方競馬挙げての一大プロジェクトが始まり、その『3歳シーズン』の最終戦に指定されたことで、関東オークスはより白熱した名物レースになっていったのです。

 

 

 

2.『GRANDAME-JAPAN』

 

『GRANDAME-JAPAN』とは、「ロジータふたたび。」を合言葉に、牝馬の活躍の場を作るため企画された世代別牝馬重賞シリーズです。

各地方のレースを『3歳シーズン』『古馬シーズン』『2歳シーズン』の3シリーズとして体系化し、競走成績によりポイントを付与。ポイント獲得上位馬には賞金ボーナスが与えられます。

 

3歳牝馬を対象とした『3歳シーズン』は、【桜花賞(浦和)→若草賞(名古屋)→ル・プランタン賞(佐賀)→東海クイーンカップ(名古屋)→東京プリンセス賞(大井)→留守杯日高賞(水沢)→のじぎく賞(園田)→関東オークス(川崎)】の8レースが該当します。最終戦に指定された関東オークスには、各地のレースで好成績を上げた馬が集まります。

地元で名を鳴らした馬達が、ダート女王の栄冠を目指しライバルとしのぎを削る──その真剣勝負に、ファンの胸は熱くなりました。

ともすれば芝路線に隠れがちのダート牝馬路線ですが、ファンの注目を集める絶好の舞台として、関東オークスは年々重要性を増しているのです。

 

さらに関東オークスは、檜舞台に相応しい「レースとしての面白味」も十分に備えています。十人十色ではありますが、ファンにとっての「面白味」のひとつとして、真っ先に思い浮かぶのは「馬券妙味」なのではないでしょうか。そう、馬券的な波乱が多いのも、関東オークスの特徴のひとつなのです。

 

川崎競馬場は小回りでコーナーがきつく、6回もコーナーを回る関東オークスのコースでは器用さが求められます。またペースが上がる2周目の向正面では、遅れずに良いポジションで立ち回れるスピードも求められます。

馬の力だけでなく騎手の判断も大切になるため、一瞬の油断が勝負を左右することも多いレースになります。人気馬の隙をつき、人気薄の馬が好走する年もしばしばです。

 

実際に2000年以降、交流重賞で常に人気の「JRA馬の上位独占」はたったの4回限り。2009年から2018年までの10年で、馬券圏内に食い込んだ馬30頭のうち13頭が地方馬と、人気薄の馬も健闘し高配当に一役買っています。さらに3連単では5桁以上の配当が7回と、関東オークスは思い切って穴を狙えるレース傾向にあります。

 

 

 

3.ユキチャン

 

レースの質が高く、『GRANDAME-JAPAN』のバックアップもあり、さらには配当妙味も期待できる……関東オークスは様々な角度から楽しめるとても魅力的なレース。

それ故、毎年颯爽と砂を蹴り上げ、ダートのヒロインが生まれています。

そんな歴代勝馬のなかでも個人的に印象深いのは、2008年(第44回)を勝利したユキチャンです。

 

ユキチャンと言えば、まず真っ白な美しい馬体が思い出されます。ユキチャンは大変希少な「白毛」という毛色の持ち主です。

その昔「芦毛の馬は競馬で大成しない」という根拠のない噂があったように、当時白毛馬は活躍できないのではないかと一部で言われていました。

 

しかしユキチャンはそんな評価もなんのその、白毛馬として初の重賞制覇を達成したのです。しかも2着馬に8馬身差の2分14秒7という、レースレコード(当時)での完勝でした。

 

 

 

ユキチャンが産まれたのは2005年のこと。クロフネを父に、シラユキヒメ(父:サンデーサイレンス)を母に北海道早来町のノーザンファームで産まれた仔馬は、動きが柔らかく大変優秀な馬でした。

2007年に美浦の後藤由之厩舎に入厩後、7月8日の福島競馬場2歳新馬戦(芝1200M)でデビューしましたが、進路妨害もあってか2番人気ながら14着に終わります。後から振り返れば適正のあるダートではなく、芝レースだったのも敗因なのでしょう。

ただ、『ユキチャン』という可愛らしい名の白毛の牝馬は注目を集め、同年4月に兄のホワイトベッセルがJRA史上初の白毛馬による勝利をあげていたのもあり、初戦は敗けてもいつか勝てるのでは、と期待されていました。

 

その後ユキチャンは放牧に出され、復帰戦の中山競馬場2歳未勝利戦(ダート1200M)で初勝利をあげ、2歳シーズンを終えます。翌年3月にはミモザ賞(500万下)で芝の特別戦初勝利(白毛馬としては初)をあげると、狙いをクラシック路線に定め、4月のサンスポ賞フローラステークス(オークストライアル)へ出走(7着)。結局、賞金不足のためオークス出走は諦め、陣営は関東オークスへの挑戦を決めます。ユキチャンのダートでの脚力に賭けたのです。

 

2008年6月18日。

それまで主戦だった吉田隼人騎手から、鞍上に武豊騎手を迎え、ユキチャンは川崎競馬場に姿を現しました。

父クロフネの主戦騎手との初コンビということもあり、ユキチャンはさらに大きな注目を集めます。当日の川崎競馬場の入場者数は前年比127%を上回り(1万5882人)、売り上げは4億円を超える記録を達成。当日の混雑を予想して、なんとユキチャンの単勝専用窓口が特別に設置されなど、まさに『ユキチャンフィーバー』といった様子でした。

 

その盛況ぶりに応えるように、ユキチャンはスタート後、正面スタンド前で先頭にたつとそのまま後続を引き離し、1番人気のプロヴィナージュに8馬身もの差をつけ圧勝。

しかも2分14秒7というタイムは、それまでの記録を0秒9縮める素晴らしいものでした。

ゴール後、真っ白の馬体が夜の競馬場に輝く様は、自身初となる、また白毛馬として初めての重賞勝利に相応しい、とても美しく誇らしいものでした。

 

その後、ユキチャンはジャパンダートダービーに出走する予定でしたが、蕁麻疹で除外を余儀なくされます。秋は再び芝のレース(クイーンステークスGⅢ・9着)やダート重賞(シリウスステークスGⅢ・8着)に挑戦し、秋の牝馬クラシックGⅠ秋華賞に出走。白毛馬初のGⅠ出走を果たしますが結果は17着に終わります。

やはりユキチャンは芝よりもダートでこそ……と舵を切り直した陣営は、年末のクイーン賞(船橋)へ出走。ここではヤマトマリオンの2着に敗れますが、確かな手ごたえを掴んで3歳シーズンを終えました。

 

2009年1月。

4歳となったユキチャンは大井のTCK女王盃(GⅢ)に挑戦し、1番人気に推されましたが再びヤマトマリオンの後塵を拝します(2着)。

ところがその年の夏、賞金規定により地方交流競走の出走枠からユキチャンが外れる事態が発生します。将来を案じた関係者の協議により、ユキチャンは川崎競馬の山崎尋美厩舎へ転厩することになりました。

 

以降主戦となる今野忠成騎手を迎え地方初出走のTCKディスタフ(大井)を3着に纏めると、ここから更なる快進撃が始まります。

昨年2着に敗れた12月のクイーン賞(GⅢ・船橋)では、ヤマトマリオンを上回る1番人気に応え見事優勝。

返す刀で翌年の1月、TCK女王盃も中央の芝・ダート路線で活躍したウェディングフジコを退け重賞連勝を果たしました。山崎調教師が後にインタビューで語った通り、ユキチャンは「アイドルホースから女王へ」進化を遂げたのです。

こうして5歳のスタートを最高な形で切ったユキチャンですが、その後は体調不良や脚部不安のためレースを勝つことができず、残念ながら12月に引退。繁殖入りが決定しました。

競走成績は17戦5勝、うち重賞3勝(関東オークス・クイーン賞・TCK女王盃)。

中央・地方と所属を変えつつ力を発揮できる舞台を求め、しっかりと周囲の期待に応えてきたユキチャン。そんな頑張りが認められ、地方競馬の年度表彰「NARグランプリ2010」において最優秀牝馬に選出されました。2010年TCK女王盃優勝が評価された結果でした。

 

関東オークスのレース後、武騎手が「アイドルホースだったから緊張した。ただかわいいだけじゃなくて、強い姿を見せられて良かった」と語った通り、その実力と魅力を大舞台で開花させたユキチャン。

それ以降も毎年、各地方から、可愛さと強さを兼ね備えた牝馬が関東オークスに集結します。さて次の関東オークスは、どんな大輪の花が3歳女王として咲き誇るのでしょうか。大きな声援でもって(もちろん馬券も買って)、しっかり見届けたいと思います。

 

 

文・地方競馬初心者マン

写真・Horse Memorys、オガタKSN

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