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[重賞回顧]第80回菊花賞(GⅠ)~それは人生の縮図~

 

昭和63年第49回菊花賞。

抽選対象だったスーパークリークは複数の出走回避馬によって出走枠を与えられた。

背中にはデビュー2年目19歳の武豊騎手。

タケクニさんのセガレは4角で空いたインにスーパークリークを潜りこませ、同じく抽選対象だった2着ガクエンツービートに5馬身も差をつけて快勝した。

 

平成8年第57回菊花賞。

日本ダービーでフサイチコンコルドの驚異的な末脚に屈したダンスインザダーク。

4角でバテた馬などによって進路を塞がれ、密集するインに突っ込み、直線で馬群をさばきながら上がり3ハロン33秒8の末脚を繰り出し、春の雪辱を果たした。

管理する橋口弘次郎師をして「武騎手でなければ勝てません」と言わしめた。

 

平成12年第61回菊花賞。

皐月賞馬エアシャカールは夏に異例のイギリス遠征を決行。

帰国後の神戸新聞杯では武豊騎手をして制御不能になるほどの口向きの悪さを露呈。

本番の菊花賞で不安視されたものの、内ラチ沿いを走らせるレースプランを立てた武豊騎手に導かれ、2冠馬に輝いた。

菊花賞勝利数が父武邦彦元騎手の3勝に並んだ。

 

平成17年第66回菊花賞。

シンボリルドルフ以来2頭目の無敗の3冠馬に挑んだのがディープインパクトと武豊騎手。

まさかのロケットスタートから1周目3、4角で折り合いを欠く姿に淀が日本中がどよめいた。

一矢報いんと早めに仕掛けたアドマイヤジャパンと横山典弘騎手をゴール前100mで一気に交わした英雄の脚は生涯忘れまい。

 

昭和から平成そして令和へと移り、記録にないほど異例な菊花賞を迎えた令和元年。

皐月賞馬、日本ダービー馬、セントライト記念勝ち馬、神戸新聞杯勝ち馬、みんな出走しない菊花賞は史上初だからだ。

 

皐月賞2着、日本ダービー3着ヴェロックス、日本ダービー5着ニシノデイジーに次いで3番人気に推されたのが武豊騎手が乗るワールドプレミア。

三元号でのGⅠ勝利、菊花賞最年少勝利記録だけでなく最年長勝利記録もかかったレースだった。

 

スタート直後、先手を奪ったカウディーリョが作るペースは最初の1000m62秒4のゆったりしたもの。

先行集団をはじめ多くの騎手の手綱が張り詰めている。

ヴェロックスは外枠から4番手の外に位置、こちらもやや折り合いを欠きながらの追走だ。

その直後のインに収まったワールドプレミアも行きたがりはするが、内に入ったことで落ち着きを取り戻した。

目前にヴェロックス、いやらしいまでの絶好位。勝因はまさにこれに尽きる。

中盤の1000m62秒9と菊花賞らしいペースダウンにナイママやヒシゲッコウらがたまらず動く展開にも、ワールドプレミアと武豊騎手は一切動じるところがない。

 

最後の4角の下りから仕掛けるヴェロックス。

後ろは警戒しながらもやはり勝つために動くしかない。

つられて動く組、外から進出するサトノルークス、伏兵ディバインフォース、小さな挑戦者メロディーレーンら待機組も手応えよく追い上げを開始する。

そんな場面においても武豊騎手は動かない。

まるでワールドプレミアが直線で繰り出す脚と前方にいるヴェロックスの手応え、すべてを知り尽くしているようだ。

 

抜け出しにかかるヴェロックス、外から迫るサトノルークス、ディバインフォースとメロディーレーン。

これら全てをインから鮮やかに捕らえたのがワールドプレミア。

レースがあたかも武豊騎手の手中にあったかのような、かつて競馬ファンを色々な意味で熱くさせたユタカマジックが令和の世に甦った。

勝ち時計3分6秒0(良)

 

 

 

■各馬短評

 

1着ワールドプレミア(3番人気)

 

春はつばき賞1着、若葉S2着の後、クラシックに出走せず休養。

秋緒戦の神戸新聞杯3着から変わり身を見事にみせた。

パドックでは若さを出すような場面もあったが、レースはインの好位でなんとか落ち着くことができた。

武豊騎手の手腕も大きかったが、長距離戦の最後の直線で最後までしっかりとした末脚を披露するなど、血統の良さを開花させた。

騎乗する武豊騎手は3つの時代で菊花賞5勝目を挙げた。

この日も武豊騎手にしかできない、菊花賞を熟知したようなレース運びに感動すら覚える。

最年長菊花賞勝利騎手、来年以降もまだまだ更新の機会は多い。

 

2着サトノルークス(8番人気)

 

皐月賞、日本ダービーでは見せ場は作れなかったが、立て直した秋はセントライト記念と合わせ連続2着。

道中は外を回りながらもヴェロックスを捕らえる末脚はさすがディープインパクト産駒といえる。

母父サドラーズウェルズのやや奥手な成長曲線、まだまだ先が楽しみな存在だ。

 

3着ヴェロックス(1番人気)

 

大混戦のなかの主役ではあったが、主役は主役らしい競馬に徹した。

好位の外4番手という折り合いがつけにくい位置取りも川田将雅騎手が懸命になだめて流れに乗せた。

勝負どころでも躊躇せず強気に仕掛けたあたりは川田騎手らしい。

結果的には目標にされ、ヴェロックス自身も最後まで伸びきれなかったが、血統を考えてもやや距離が長かった印象で、適距離に戻って再度の活躍を期待したい。

 

 

■総評

 

菊花賞は人生に似ているように感じる。

スタート直後の最初の3、4角は若き日の少年少女のごとく夢中にやや大人の制御を振り切らんとし、正面直線で受ける大歓声は初めて体験する社会の喧騒のようで、ここでいかにして自分を取り戻せるかが課題となる。

1角から2角、向正面では誰よりも先にと機先を制し、出し抜けを狙うようなものが現れ、3角のぼりから4角下りに円熟味を帯びた大人のたしなみが求められる。

人が40年以上かけて過ごす長い年月の縮図が菊花賞であると考えれば、ワールドプレミアには極めて高い知性を感じ、横山典弘騎手らしい一発逆転を狙ったディバインフォースに策士の香りがする。

そして、牝馬、さらに340キロと極めて小さな体で最後まで牡馬相手に互角以上の走りを繰り出したメロディーレーンに勇気をもらった競馬ファンは多い。

体が小さいことは決して劣っているわけではないということ、メロディーレーンが伝えるものは想像以上に大きかった。

文・勝木淳

写真・かぼす

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