南部杯 ~ 天高く○○肥える秋?

天高く馬肥える秋になりました。マイルチャンピオンシップ南部杯(JpnⅠ)が行われる季節です。

岩手競馬のホームページを開けば、筆文字で「南部杯」と書かれた和風のバナーが輝いています。さっそくバナーをクリックすれば、金色を基調とした画面に、家紋と綺羅星のようにちりばめられた過去の優勝馬達が現れました。

なんだが大河ドラマのテーマソングでも流れそうな雰囲気です。それもそのはず、実はレース名の由来が江戸時代に盛岡藩を治めた南部氏なのです。金屏風を連想させる広告デザインも納得です。

 

1988年に「北日本マイルチャンピオンシップ南部杯」として水沢競馬場で始まり、地方競馬北日本地区のマイル王を決したこのレース。1995年には「マイルチャンピオンシップ南部杯」と名を改め、その翌年に盛岡競馬場へ舞台を移しました。さらに1997年にGIに格付けされてからは、全国のダートマイル王決定戦として浸透します。今や南部杯は岩手競馬のみならず、全国から注目を浴びる重要なレースとなりました。

今回は南部杯のセールスポイントについて、私感ながらも「3つのR」を起点に記していきます。

1、リゾート【resort】

JR盛岡駅から無料優待バス(軍資金を温存するのに助かります)に乗り30分。盛岡競馬場に着けば、まず立派な設備やコースの美しさに感動することでしょう。

OROパークと呼ばれるそこは、玄関からして圧巻です。ガラス張りの建物を背にブロンズの競走馬が堂々と立ち、花壇の緑も映え、まさに「ORO」(スペイン語で『金』の意味)にふさわしい、豪華な造りです。

建物に入れば、広々とした空間と、快適さを追求した多くの設備が出迎えてくれるため、士気も上がります。

座席は1階2階の一般観覧席から3階の指定席(R・F・Gと3種あり)と種類も十分。4階の個室はVIP専用ですが、クラブハウスには会員であれば立ち入り可能なので、リッチな気分を味わいながらの馬券検討も可能です。アトリウムには大型モニターも設置され、悪天候の際にもレースをしっかり観られます。またイベント開催時はステージと化し、来場者の注目を集める場にもなります。

OROパーク2階からのパノラマ風景(ホームページに掲載中)も必見です。正面に岩手山・左手に高倉山・右に前森山を一望する風景は、晴れた空の下で緑もいっそう深くなり、競馬場にいながら日本の原風景を味わえる素晴らしさです。勝負で悲しい思いをした場合は、4コーナー奥「沈床庭園」で深呼吸するといいかもしれません。閑静な場所でじっくり検討すれば、再起の一撃を繰り出すことも、可能とか可能でないとか……。

ともあれ、家族向けの遊具エリアも備えた4コーナー奥は、券売所からは少々遠いですが、立ち寄らないで帰るのはもったいない癒しのエリアです。

 

そしてお昼時となればお待ちかね、地方競馬場巡りの醍醐味、ご当地グルメ三昧です。

盛岡競馬場の屋台村には名物のジャンボ焼き鳥やじゃじゃ麺・冷麺と、競馬ファンの胃を満たしてくれる美味しいメニューが並びます。

腹ごしらえを終えた後は、メインレースへ向け集中力を高めていきましょう。

そこで注視すべきは、盛岡競馬場自慢のコースです。

地方競馬場で唯一、芝とダートが揃ったコースに、見ているだけでテンションが上がります。内側に芝(1400m)外側にダート(1600m)を配した直線400mのコースは、地方競馬場では珍しく約4mの高低差があります。この起伏がエッセンスとなり、実力勝負の熱戦が数々生み出されてきました。また、レースの実施距離がダート1000m・1200m・1400m・1600m・1800m・2000m・2500m、芝1000m・1600m・1700m・2400mと多様なのも、大きな特徴です。

 

南部杯が行われる10月は、気候も良く食べ物も美味しい、行楽に絶好の時期です。

日光を受け窓ガラスを輝かせるスタンド、絨毯のように目の詰まった緑のターフ、整備されたダートの波模様。

盛岡競馬場の壮観な景色がファンを待っていることでしょう。

観賞と娯楽を両得できるOROパークは、まさに、リゾートにうってつけの施設なのです。

2.レース【race】

前述のとおり、盛岡競馬場は大レースを実施するのに申し分ない環境です。

では、そこで行われる肝心の南部杯について、いくつかの特色をご紹介します。

 

南部杯は、秋から冬のダートGⅠ路線のトップバッターとして、長年重要な役割を担っています。その路線というのが、南部杯からJBCクラシック・チャンピオンズC・東京大賞典を経て、翌年2月の川崎記念まで続くという、かなり歯ごたえあるラインナップです。

今後のダート界を占うレースゆえに、自然と、過去の優勝馬も実力馬が占めています。

また、既にGⅠ馬であるJRA所属馬の出走が多く、それもレースが盛り上がる要因でしょう。実際、過去10年の結果も3着以内のほとんどはJRA勢で、唯一グランシュヴァリエ(高知)だけが地方所属馬で3着に入線しました。

 

実力馬が力通りに勝利する傾向は配当にも表れています。2着にノボバカラ(7番人気)、3着にキングズガード(5番人気)が入った2017年、また3着にグランシュヴァリエ(11番人気)がきた2010年を除けば、3連単でも万馬券に届かない平穏ぶり。

特に1番人気の信頼度は高く【5‐4‐1‐0】、単勝は最も高くて1460円(2012年)。なんと、8割が3桁配当という堅実さです。

また連覇が多いのというのも際立った特徴で、コパノリッキー・ベストウォーリア・エスポワールシチー・ブルーコンコルドが連覇を達成しました。過去10年に限っても、これだけいるのだから驚きです。(さらに遡れば、トウケイニセイ・ユートピアも連覇しています)

これだけ1・2番人気が信頼できれば、馬券的には予想の組み立てがしやすく、比較的当てやすいと言えるかもしれません。(実際はそんなに単純ではありませんが、数字上は的中率が高いと言えるでしょう)

最近はあまり聞かなくなった「銀行レース」という言葉。南部杯がこの傾向にあるのは、コース形態も関係していると考えられます。

先に触れたように、盛岡競馬場のダートコースは高低差4.4mと起伏のあるコースです。また、直線は短くも1.5mの上り坂となっています。2コーナー奥の引き込み線からスタートするコースは、芝コースを序盤に走る東京ダート1600mと似ています。東京のマイルを勝つには、スピードとタフさが必要と言われています。場所は違えど、南部杯のコースもまた速さと力が勝利の鍵です。先行しながらレースを進め、短い直線にある上り坂を力強く駆け後続の追撃を封じる必要があるのです。王者が王道を行く、または次世代の強者が覇道を切り拓くレース。そうした熾烈な勝負が、何度となく繰り広げられたのです。

 

さて、ハイレベルな内容を誇る南部杯ですが、GⅠ路線の口火を切るという役割のほかに、もうひとつ大事な役目を負っています。それはJBCのトライアルレースとして、優勝馬に優先出走権を与えるという役割です。

通常、クラシック路線を除けばトライアルは重賞であってもGⅡまで、GⅠでありながらトライアルレースというのは珍しいケースです。

しかも与えられる優先出走権はJBCクラシックとスプリントの2種類。クラシックとスプリントのうち、どちらか出走したいほうを選べるのです。

一度の勝利で2枚のチケットが貰えるとは(実際に使うのは1枚ですが)、かなりお得な感じです。

 

こうした魅力的な権利関係もあってか、南部杯はトライアルとしても注目を浴び、発展を遂げてきました。南部杯は賞金も高いためしっかり仕上げてくる馬が多く、約1か月後に控えるJBCの内容を占うのに打って付けです。

事実、南部杯は2001年のJBC発足から、多くの有力馬達を競馬の祭典に送り出しました。

 

そこで気になるのが、南部杯で優勝した馬、さらに3着内に好走した馬の次走です。

出走権を得た馬はもちろん、例え出走権は逃しても、トライアルレースで良い成績だった馬は、(次走にJBCを選ぶなら)勝負気配を帯び登録してくるはずです。そんな目イチ勝負として、クラシックとスプリントのどちらを選んだのか。南部杯1着~3着馬で次走がJBCだった馬について調べてみました。

(結果表と戦績を見比べての手作業統計のため、ちょっとした余興としてご覧いただけると幸いです。ちなみにJBCに実際に出走した馬のみが対象。また、2006年についてはJBCスプリントではなくマイルのため除外。さらに2006年の該当馬がマイルに出走したブルーコンコルド1頭のため、2006年はそもそもカウントしていません。2011年の東京競馬場での開催は該当馬がいるため統計に含んでいます)

 

連覇同様リピート好走も多く、同じ馬名が並び、統計に苦労しました。

結果、2001年から2017年まで該当馬は延べ28頭。

そのうち次走がクラシックの馬は18頭。

対してスプリントの馬は10頭でした。

クラシックとスプリントの対比としては、大雑把に言えば2:1といったところでしょうか。ここ近年の流れからすると両者同率、もしくはスプリントが多いかと予想したのでこれは意外でした。

ただ、過去10年に絞れば結果は変わります。

2008年以降の該当馬18頭のうち、クラシックへ出走したのが7頭なのに対し、スプリントへ出走したのは9頭と逆転したのです。

ここで注目したいのは、スプリントへ出走した該当馬が、2001年からの統計(10頭)と2008年からの統計(9頭)で1頭しか変わらないことです。そもそも次走スプリントの該当馬は2007年になってようやく登場した、という出遅れぶりでした。

南部杯を好走した馬は次走JBCならクラシックへ、というのがJBC初期の流れなのでしょう。

 

クラシックとスプリントの比率が半々であることから、近年になり、2種類のトライアルという南部杯の特色が、より反映されていると思われます。

実際、昨年連覇を果たしたコパノリッキーは2017年はスプリントに、2016年はクラシックに出走しました。

また、2014年・2015年と連覇したベストウォーリアも、それぞれ次走はクラシック・スプリントと2つのカテゴリーを選びました。

 

中距離が得意な馬、短距離が得意な馬、オールラウンダー。

南部杯は様々なカテゴリから実力馬が出走し、毎年競馬ファンを魅了し続けています。

こんなに面白いレース、見逃す手はありません!

3.レア【rare】

1年で最も過ごしやすく、運動や芸術活動で人々が活発になる秋。

南部杯は1995年から、10月の「体育の日」に開催されています。

開催日が固定された重賞は珍しく、しかも祝日に開催というのは、レアなケースです。

 

さらに2000年以降ハッピーマンデーが施行され、「体育の日」は10月10日から10月の第2月曜日へ変更になりました。この週はJRAでも土日祝の3日間開催が定着していて、今年の「体育の日」もJRAでは京都大賞典(GⅡ)が開催されます。

つまりJRAの競馬で盛り上がった後、南部杯でさらなる勝負ができるのです!

中央競馬で儲かった人は上積みを、また、負けた人は一発逆転を狙える……そんな特別なGⅠレースとして、南部杯へ視線が集まるでしょう。

現在はインターネット投票を利用すれば、全国のファンが手軽に馬券を購入できます。残念ながら盛岡競馬場に行けないファンも、こうした手段で南部杯に参加できるのです。

地方競馬発展のためには、JRAとの連携は必須です。平日開催やナイター競馬など、地方競馬の趣は大切にしつつ、一方ではJRAとの同日開催をきっかけに地方競馬を知ってもらうことも大切です。新たなファン獲得へ向け、南部杯は一役買ってくれるでしょう。

澄み切った青空、緑も瑞々しい樹々。

自然の織り成す色彩が、毛艶を増した馬達をさらに際立たせる秋。血沸き肉躍る名物レースは、祝日の雰囲気も相まり、これからのレースも毎年、ファンの心に鮮烈な印象を残すでしょう。

ぜひとも当たり馬券をゲットし、「天高く財布肥える秋」といきたいものです。

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文・競馬初心者マン

写真・みれちか、マシュマロ、horsetrip