今回から「南関名勝負」と題しまして過去の名勝負をご紹介していきます。私は地方競馬に興味を持ち始めたのはおおよそ2000年以降ですので、大ベテランの先輩方からすれば比較的新しいレースが中心になるかと思いますが、南関競馬にまだ興味をあまりお持ちでない方にもご覧いただければ幸いです。

今回は、私が初めて地方競馬場へ足を運んだ頃──2007年の3歳牡馬クラシックの戦いを取り上げていきたいと思います。

2007年の南関牡馬クラシック世代は近年稀に見るハイレベルな世代で、3頭の馬を中心に展開していきました。その3頭とは、フリオーソ、アンパサンド、トップサバトンです。

トップサバトン

フリオーソはダーレーグループの所有馬として船橋の名門・川島正行厩舎からデビューした「南関生え抜き」。前年の全日本2歳優駿でJRA勢を相手に勝利し、いち早く世代のダート王の名を手中に収めていました。

アンパサンドは父フィガロ、母アビエントともに伊達秀和氏(サンシャイン牧場)の所有馬。牝系を見ても桜花賞馬ブロケードをはじめとして、まさにサンシャイン牧場の夢の結晶とも言える血統馬でした。こちらはホッカイドウ競馬でデビューし前年の北海道2歳優駿、全日本2歳優駿ともに9番人気ながら2、3着と、勝てないまでもかなりの素質を見せていました。

残る一頭トップサバトンもホッカイドウ競馬でデビューし、前年の北海道2歳優駿で7番人気ながら優勝。その後兵庫ジュニアグランプリ2着、全日本2歳優駿ではフリオーソの4着と敗れたものの、JRA勢と互角以上のレースぶりで、こちらも南関クラシックで頂点を狙える素質馬であることは明らかでした。

迎えたクラシック前哨戦の京浜盃。
私は現地で観戦していました。
フリオーソは年明けからJRAの芝路線へ挑戦していたため、クラシック前哨戦・京浜盃は不在。

1番人気は譲ったものの、北海道2歳優駿でワンツーを決めていたトップサバトン・アンパサンドがそのまま1着、2着と、南関でも力が上位であることを示す内容で、フリオーソとの対決が楽しみになるレースとなりました。

そして3頭が5カ月ぶりに相見えることとなった一冠目の羽田盃。
圧倒的1番人気のフリオーソは先行、その後ろに4番人気アンパサンド、中団に控えた2番人気トップサバトン。
トップサバトンが3コーナーで一気に動き、フリオーソもそれに合わせて動いて2頭で先頭、その後アンパサンドも追撃を開始し4コーナーではもう3頭の争いに。
直線は3頭での鎬を削る激しい攻防でしたが最後の最後でトップサバトンが出て、フリオーソへの雪辱を果たします。
アタマ差の2着にアンパサンド、更にクビ差でフリオーソ。
4着レッドドラゴンは3着フリオーソから5馬身も離されてしまい、3頭の強さが浮き彫りになるレースでした。

良馬場での勝ち時計1分51秒1は大井1800mで行われるようになってから2018年までを見ても、馬場状態を問わず最速の時計で、いかにレベルが高い争いだったかが分かります。

アンパサンド

二冠目の東京ダービー。

ここでも1番人気はフリオーソ。2番人気トップサバトン、3番人気アンパサンドと続き、4番人気以下は10倍以上と3頭の争いとなるのは確実と思われました。

ところが、スタートで3頭の明暗が分かれます。
トップサバトンがゲートを出ずに大きく出遅れてしまい、離れた最後方に。
この時点で焦点はフリオーソ、アンパサンドどちらが勝つのかということに絞られたと言ってもいいでしょう。

フリオーソは道中から好位のアンパサンドを終始ピッタリとマーク。
直線で抜け出しを図るアンパサンドの外に並びかけ、内のロイヤルボスとの3頭の追い比べ。

フリオーソが抜け出すか、という態勢でしたが──内のアンパサンドが抜かさせない。
アンパサンドが二枚腰を発揮して、ゴール前で、グイと出ての東京ダービー制覇。
フリオーソは羽田盃に続いてまたしても後塵を拝することになります。
鞍上の戸崎騎手にとってはこれが初の東京ダービー制覇となり、トップサバトンは出遅れながらもよく追い上げたものの、8着に終わりました。

南関東牡馬三冠の最終戦ジャパンダートダービー(JpnⅠ)では、強豪JRA勢との戦いにもなります。
ここでフリオーソは3戦目にして初めて、1番人気を譲ります。
4連勝でユニコーンSを制しての参戦となった武豊騎手騎乗のJRAロングプライドが1.5倍の圧倒的人気に推され、3歳を迎えてまだ勝ち星のないフリオーソはアンパサンドにも人気を譲っての3番人気。
続く4番人気トップサバトンまでが一桁台の単勝オッズで、5番人気以下は25倍以上と「ロングプライド対南関東3強」という構図となりました。

当日は水の浮く不良馬場。
前走で大きく出遅れたトップサバトンが今回はスタートを決めて積極的に先行態勢。
そこをJRAエイシンイッキがハナを制し、フリオーソも続いて2番手と早目早目の立ち回りをしていきます。

アンパサンドは中団に構え、ロングプライドはそれを見る位置でのレースとなりました。
3コーナーを前に、フリオーソ・トップサバトンが並んで一気にエイシンを捉えて先頭へ。
そこへアンパサンドが続き、ロングプライドも3頭めがけて追っていきます。

大方の予想通り4頭の争いかと思わせたのは、ほんの一瞬にしか過ぎませんでした。
4コーナーではトップサバトンが脱落し、フリオーソは直線に入るところで一気に突き放して勝負をかけます。

追うアンパサンド、ロングプライドですが、差はまったく縮まりません。
重戦車のごとく突き進んだフリオーソはそのまま一気に、全日本2歳優駿以来となる先頭でのゴール。
及川アナの熱い実況……ゴール前の「3つ目で決めた!!」は今でもよく覚えています。

フリオーソはラスト一冠、それもJpnⅠを勝ち取って、ようやく秘めた能力を堂々と大観衆──そして全国のファンへと知らしめ、改めて世代のダート王へと君臨しました。
2着アンパサンドとの差は2馬身半、更にそこから3着ロングプライドは4馬身離され、トップサバトンは直線失速し10着に終わりました。
勝ち時計の2分2秒9は不良馬場もあったにせよ平成におけるジャパンダートダービー最速時計となっています。

フリオーソ

これまでの鬱憤を晴らすかのように突き抜けたフリオーソはジャパンダートダービー以降、引退するまでほぼ逃げか3番手以内という積極的に立ち回る戦法を貫き、その後の活躍は言わずもがな、種牡馬としても地方重賞勝ち馬を多数送り出し、存在感を増してきています。

一方、東京ダービー馬アンパサンドはその後の勝ち鞍は南関重賞1勝のみ、羽田盃馬トップサバトンは結果的に羽田盃が競走生活での最後の勝利となってしまい、成績的にはクラシック以降は大きな差がついてしまいました。
しかしそれでも、三冠を分け合った2007年のハイレベルな南関牡馬クラシックの戦いは今でも色褪せるものではありません。

地方競馬に嵌まり始めた頃に見たこの激戦は、私に地方競馬の熱さを教えてくれたとも言えるかもしれません。

写真:ウマフリ写真班

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