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心・技・体 ここに極まれり 2013年・オーバルスプリント

 

 「競馬に絶対はない」とはよく言われる言葉ですが、競馬とは必ずしも強い馬が勝つものではなく、実力的に劣勢と見られている馬が、体調や作戦、展開など様々な要素で強い馬を負かしてひと泡吹かせるということが往々にしてあるものです。しかし、そのレースで先頭でゴールした馬が間違いなく勝者であり、そのレースで一番強かったとも言えると思います。

 

 南関名勝負第4回は、2013年浦和のオーバルスプリントにスポットを当てていきます。

 オーバルスプリントは2011年から交流重賞として施行され、この年2013年からJpnⅢ格付けとして実施されました。舞台は浦和競馬場の1400m。浦和コースは南関東4場のなかでもトリッキーで癖のあるコースです。得手不得手があり、浦和未経験の馬は苦戦することも多々見られます。JRA勢に対して地方勢が健闘することが比較的見られがちなコースでもあると思いますが、交流重賞として施行された過去2年はJRA勢に凱歌が上がり、2013年も上位人気はJRA勢が占めていました。

 

 

 1番人気は前走佐賀のサマーチャンピオンで2着のガンジス。2番人気はサマーチャンピオンでガンジスを下して重賞初制覇となったエーシンウェズン。3番人気には前年のJBCスプリントでJpnⅠを制しているタイセイレジェンド。2年前の覇者ダイショウジェットは、5番人気となりました。そして、JRA勢に割って入って地方馬で唯一のひと桁台の単勝4番人気に推されたのが大井のセイントメモリーでした。

 

 セイントメモリーは大井の生え抜きで6歳にして交流重賞初挑戦。若い頃は体質の弱いところもあり順調さを欠くなど、我慢をしながらコツコツと力をつけてようやく本格化の兆しを見せており、4走前に初めて本橋孝太騎手とコンビを組んでからはそれこそ覚醒したように4連勝、重賞を連勝して勢いに乗ってのオーバルスプリント挑戦でした。

 

エーシンウェズン

ガンジス

タイセイレジェンド

ダイショウジェット

セイントメモリー

 

 当日、私は浦和競馬場にいました。

 ひと桁台の上位4番人気までがそれぞれ浦和競馬場未経験でしたが、それでもJRA勢は強そうだなと思っていた記憶があります。

 予想も勿論、JRA勢が中心に。しかし……。

 

 地方競馬場へ行くとメインレースはほぼゴール前で見るのですがこの日は4コーナーに陣取り、スタートも目の前で見ていました。好ダッシュを決めたのはセイントメモリー。ここ3戦逃げ切りを決めておりここもハナかと思わせましたが、大外のエーブダッチマンが速く、譲って2番手に控え、JRA勢は各馬その後ろへと続きます。

 ペースが落ち、隊列が落ち着くかと思わせた向正面。ここで勝負の分かれ目が訪れました。浦和の勝負どころは向正面から3コーナー。ここで一気にマクリを仕掛けて一気に前へ出るというシーンは浦和では時々見られるのですが、この日も3番手からタイセイレジェンドがスーッと進出しセイントメモリーの外へ併せ、前へ出ようかという動きを見せました。

 引くのか、突っ張るのか。

 セイントメモリーは仕掛けてではなく持ったまま、自ら反応するように馬なりでエーブダッチマンの前へ出てタイセイレジェンドを前に出させませんでした。

 

 

 このほんの数秒の反応、動きにはセイントメモリーがこの時いかに充実していたか──そして体全体でセイントメモリーを感じる本橋騎手の自信、信頼が表れていたと思います。セイントメモリーが先頭に立ってタイセイレジェンドとともに一気にペースを上げた残り600mから400m、スタートからの2ハロン目を除けばここが道中で一番速い11.9というラップを計時。ここでタイセイレジェンド以外のJRA勢は置かれ気味になり、そのJRA勢についてこられた地方馬は後方で脚を温存していたジョーメテオのみ。先頭のセイントメモリーは抜群の手応えで4コーナーへと向かっていきます。

 4コーナーではセイントメモリーが依然として馬なりで抜群の手応え。併せていたタイセイレジェンドは手応えが怪しくなり、ここで私は馬券が外れることを確信しました。

 

 直線でもうひと伸びして突き放すセイントメモリー。タイセイレジェンドも必至に脚を伸ばしますが、5キロの斤量差もあってかその差は縮まりません。3番手には伸びあぐねるJRA勢の外から地元浦和のジョーメテオが上がりますが、セイントメモリーの本橋騎手は後ろを振り返りガッツポーズ。2馬身突き放しての交流重賞勝利となりました。

 

 

 タイセイレジェンドと5キロの斤量差があったことは事実ですが、この勝利はセイントメモリーがようやく完成されて自信をつけたタイミング、大事に使ってきた陣営の渾身の仕上げ、手の内に入れた本橋騎手のエスコート……様々なものがベストの状態で挑めたことによって成し遂げられたものでもあると思います。

 しっかりと馬の調子を整えて、JRA勢に真っ向勝負を挑み、勝利を手にする──これは地方競馬好きにとってはたまらない瞬間です。

 この時期のセイントメモリーの充実ぶりは次走のJBCスプリントにも表れていました。輸送がありながら予期せぬプラス体重となってしまったものの、抜群のダッシュでハナを切り、この日と同じように抜群の手応えで直線に向くと直線半ばまで先頭争いを演じました。最後は失速してしまいましたが、エスポワールシチーやドリームバレンチノ、テスタマッタなど錚々たるメンバー相手に0秒7差の5着に踏ん張る健闘を見せました。

 

 その後南関重賞を3勝して引退したセイントメモリーは、大井競馬場で誘導馬として、新たな南関名勝負を繰り広げるであろう各馬を戦いの舞台へと送り出しています。

 

 

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