日本競馬と海外競馬〜世界に広がりゆく日本の血統〜

近年はサクソンウォリアーを始めとする「日本血統」が活躍するニュースも多く流れ、日々注目が高まっている海外競馬。

そこで今回は「海外に輸出された日本の血統」を中心に、日本競馬と海外競馬の関係や歴史を簡単に紹介してみようと思います。

■輸入大国と世界を見据えたブリーダー

もし「一番身近な海外のレースは?」と聞かれたら、凱旋門賞を思い浮かべる競馬ファンの方が多いかもしれません。

その凱旋門賞に最初に挑戦した日本馬といえばスピードシンボリ

言わずとしれた、有馬記念連覇を達成した名馬です。

 

では、スピードシンボリが「日本馬として初めての凱旋門賞挑戦」を行った理由は何か?

……その答えは、シンボリ牧場の和田共弘氏のポリシーにあります。

以前より海外競馬に対して目を向けていた和田氏は「海外の種牡馬を輸入するだけでは駄目だ」と考え、所有馬の海外遠征を積極的に行いました。

そして日本調教馬としては初めての長期欧州遠征をスピードシンボリで行うことを決断します。

凱旋門賞への出走も、その一環でした。

 

半年近い欧州遠征で、スピードシンボリは凱旋門賞を含む各国の大レースに3戦出走。

結果は5着が最高着順で、勝利こそ実現しませんでしたが、間違いなく日本競馬の歴史に大きく貢献する遠征だったと評価されています。

 

時は流れて1989年。

スピードシンボリが27歳の大往生を遂げた年に、シンボリ牧場で1頭の仔馬が誕生します。

その馬の名前はジャムシード

「史上初の七冠馬」と言われる名馬・シンボリルドルフを父に持つ、栃栗毛の牡馬です。

 

パーソロンの2×3という強いクロスを持つジャムシードは、4代母には多くの活躍馬が子孫にいる名牝のスヰートを持つ血統。

ジャムシードを高く評価した和田共弘氏は、同馬をフランスに輸出し、名伯楽として知られるアンドレ・ファーブル調教師に預けました。

結果、フランスでは10戦して4勝。

リュテス賞というG3で2着や、仏ダービー(ジョッケクルブ賞)に出走して14着などの実績を残しました。

 

そのジャムシードが日本でも話題になったのは4歳春。帰国して日本で走ることになり「帰国子女」のような経歴と言われました。

帰国後は重賞勝利こそありませんでしたが、長距離G3のダイヤモンドSでは人気薄で2着と好走しており、条件戦で3勝を挙げています。

 

日本調教馬の海外遠征は他にもありますが、日本産馬が海外でデビューして活躍した例はジャムシードが最初と言えるでしょう。

■輸入種牡馬と日本産馬初の海外G1馬誕生

90年代の日本競馬は海外で活躍した競走馬を種牡馬として輸入することが多く、数々の名馬が日本で種牡馬入りしました。

そんな現状を見て「日本は血統の墓場だ」とイギリスの競馬評論家が言った……というエピソードも残されているほどです。

 

その輸入種牡馬の中の一頭が、ヘクタープロテクター。現役時代はフランスのマイル路線で活躍し、引退後は日本で種牡馬入りしました。

同馬の産駒を求めて繁殖牝馬を送り込んだのが、ヘクタープロテクターの現役時代に馬主だったニアルコスファミリー。海運業で利益を上げた大富豪として有名な馬主です。

その際日本に輸出された繁殖牝馬・ランジェリーが1995年に出産した牝馬こそ、後に日本産馬初の海外G1制覇を達成するシーヴァ(Shiva)でした。

 

シーヴァはイギリスのヘンリー・セシル厩舎に入厩して、3歳春の遅いデビュー戦を快勝。しかし脚部を故障して長期休養を強いられます。

復帰戦は年が明けて4歳春。その復帰戦でいきなり重賞勝利、次走のタタソールズゴールドカップでは強豪を撃破してG1制覇を成し遂げました。

その後はG1のチャンピオンステークスで2着や、G3のブリガディアジェラードSを勝利した実績があり、引退後はアメリカで繁殖入りしています。

 

日本では意外と知られていないかもしれませんが、実はこれが「日本産馬」としては初めての海外G1制覇の瞬間となりました。

■サンデーサイレンスで注目が集まる日本競馬の血統

後に大きな功績を残すことになる青鹿毛の米二冠馬が輸入されたのも、上記の90年代。皆さんご存知のサンデーサイレンスです。

あまりにも有名なので詳細は省きますが、今では考えられないほど輸入当時は評価が低く、冷ややかな目で見られていました。

もっとも、故郷のアメリカでも「絶対に種牡馬としては成功しないよ」と言われていたからこそ、輸出されたのですが。

 

そのサンデーサイレンスは産駒が日本で大活躍して「革命を起こした」と表現されるくらいの影響を与えています。

勢いは止まらず産駒は海外でも活躍、海外の馬主も競うように繁殖牝馬を送り込んだり、セールで産駒を購入するようになりました。

 

初期のサンデーサイレンス産駒の海外調教馬といえばサンデーピクニック。こちらも「帰国子女」として有名な牝馬です。

フランスに輸出されるとアンドレ・ファーブル厩舎に入厩。3歳春にはペリエ騎手と共にG3のクレオパトラ賞を勝ちました。

英オークスで勝ち馬から離された4着に敗れた後、故郷の日本に移籍。4歳時はクイーンSで3着などの実績を残しました。

 

サンデーサイレンス産駒を手に入れるために積極的に活動していた馬主といえば、ドバイのモハメド殿下が率いるゴドルフィン。

代表的な所有馬といえばUAEオークス等を制して、アメリカでもG1に出走した経験があるダヌタ(Danuta)でしょうか。

2009年には産駒のデヴォティー(Devotee)もUAEオークスを勝っており、同レース初の母子制覇という偉業を達成しました。

 

また、サクソンウォリアーの登場までは最も英クラシックに近い日本産馬だったサンドロップ(Sundrop)も、活躍馬の1頭。

2004年の英1000ギニーでは後にG1を5勝する名牝のアトラクション(Attraction)を半馬身差近くまで追い詰めて、僅差の2着。

翌年には父の故郷であるアメリカでG3のカーディナルハンデキャップを快勝、引退レースを見事に勝利で飾りました。

 

サンデーサイレンスの産駒はオーストラリアでも活躍しており、G1のATCオークスを制したサンデージョイ(Sunday Joy)は有名です。

半妹でカーネギー産駒のチューズデイジョイ(Tuesday Joy)も活躍馬で豪G1を4勝、産駒のモアザンジョイは日本で走りました。

 

日本でも広く知られる存在となっているアイルランドのクールモアグループもサンデーサイレンス産駒を狙っていた大物馬主の一人。

2001年のセレクトセールでは、最終的に2億円近い値段でモハメド殿下が落札したロッタレースの2001の競りに参加していました。

ちなみにイギリスに輸出されてドバイサンデー(Dubai Sunday)と名付けられた同馬ですが、最終的には活躍できずに引退したとか……。

■サンデーサイレンスの孫世代の活躍で更に広まる日本の血統

2000年代に入るとフジキセキやタヤスツヨシなどのサンデー後継種牡馬が南半球に輸出される、シャトル種牡馬が始まりました。

「シャトル種牡馬とは?」と疑問に思う方にむけて簡単に説明すると、日本がある北半球と南半球は季節が真逆なことを活かして夏も南半球で種付けをすることです。オーストラリアの生産者も日本の活躍馬の血を取り入れたいと考えており、輸出された種牡馬は現地でも人気だったと言われています。

 

そのシャトル種牡馬となったサンデーサイレンスの後継種牡馬の中で、真っ先に結果が出たのはタヤスツヨシ。

ヴィクトリアオークスなどG1を2勝したホロービュレット(Hollow Bullet)を輩出し、異国の地で評価を高めました。

ホロービュレットの産駒は何頭か輸入されており、武豊騎手に3400勝目をプレゼントしたランリョウオーなどが該当します。

 

更にフジキセキやジェニュインも現地で活躍馬を輩出しており、今でも母父で名前を見かけることがあります。

そういった馬の子孫を探して応援することができることも、オーストラリア競馬の魅力の一つなのかもしれません。

 

また、香港マイルを制して最優秀短距離馬も受賞したハットトリックも海外で活躍するサンデーサイレンスの後継種牡馬の一頭。

代表産駒のダビルシム(Dabirsim)は2歳時に無敗でG1制覇。欧州の最優秀2歳馬に選出されて日本でも話題になりました。

そのダビルシムは2017年にデビューした初年度産駒が大活躍。2018年の種付けシーズンには200頭近くの繁殖牝馬を集めた人気の種牡馬となっています。

 

また、海外で種牡馬入りしたサンデーサイレンスの後継種牡馬の中で大きな成功を収めているのが、ディヴァインライト。

引退後は日本で種牡馬入りしたものの残念ながら人気が出ず、後にフランスに輸出されましたが、欧州では大成功。

2007年の欧州最優秀2歳牝馬を受賞し、英1000ギニーを制したナタゴラ(Natagora)を輩出した実績があります。

 

そして記憶に新しい方も多いと思われるのがハーツクライ産駒のヨシダ(Yoshida)のアメリカでの大活躍。

セレクトセールで約1億円でアメリカの名門牧場のウィンスターファームに落札され、東海岸に拠点を置くウィリアム・モット厩舎に入厩。

初勝利から連勝して挑んだベルモントダービー招待Sでは1番人気に推され、年末にはG3のヒルプリンスSを勝って順調に重賞初制覇を達成。

年が明けて4歳初戦となった今年5月のターフクラシックSでは、人気薄の評価を覆して初G1制覇を果たしました。

■今最も注目を集める種牡馬、ディープインパクト

そして忘れてはいけないのがディープインパクトの存在。2018年現在、4000万円の種付け料を誇る世界トップクラスの種牡馬です。

 

2006年の有馬記念を最後に引退したディープインパクト。種牡馬入り当初より、海外の馬主からも注目を集めた存在でした。

まず最初に繁殖牝馬を送ってきたのはウィルデンシュタイン家。数々の名馬を所有しているフランスの有名馬主です。

日本行きに選ばれたのはバステットという繁殖牝馬。大した実績はありませんが、近親にG1馬もいる良血馬でした。

 

初年度産駒の中で海外に輸出されて競走馬になったのは、セレクトセールで購入された馬も含めて数頭。

その輸出された数頭に先述のバステットの子供であるバロッチ(Barocci)という青鹿毛の牡馬もいました。

 

フランスで走ることになったバロッチはリステッドレースを勝利。その後はアメリカに移籍して通算で3勝を挙げています。

引退後にはスウェーデンで種牡馬入り。アメリカで活躍するブリーダーの吉田直哉氏が種牡馬入りの仲介役を務めたそうです。

 

本格的にディープインパクトの名が海外に知れ渡ったのは、バロッチの全妹のビューティーパーラー(Beauty Parlour)の活躍。

持ち込み馬としてイギリスで誕生した同馬。2歳になるとフランスのシャンティイに拠点を置くエリー・ルルーシュ厩舎に入厩しました。

 

デビュー戦は9月上旬のサンクルー競馬場。そこを圧勝すると、23日後に出走した2戦目も快勝して無敗の2連勝を果たします。

冬を越して3歳の始動戦となった春のG3のグロット賞も難なく勝利。間違いなく現地フランスで怪物候補の1頭だったでしょう。

 

そして1番人気の支持を受けて挑んだ仏1000ギニーでも強い競馬で押し切り勝ち。無敗の4連勝でG1初制覇を達成しました。

この勝利がディープインパクト産駒にとって初の海外G1制覇。ディープの海外での評価を高める足掛かりとなります。

 

次走は1ヶ月後の仏オークス。5連勝で仏牝馬二冠制覇を目指して出走するも2着に惜敗で、初めての敗北を味わうことに。

その後は馬主の騒動に巻き込まれてイギリスのサー・ヘンリー・セシル厩舎に転厩、しかし最終的に仏1000ギニーが最後の勝利となりました。 

 

更にディープインパクトの評価を高めることになったのは、日本でも有名なサクソンウォリアー(Saxon Warrior)の存在。

クールモアが送り込んだ繁殖牝馬の一頭のメイビーを母に持つ牡馬で、日本で誕生後に海外へ輸出されています。

 

無敗の4連勝で英2000ギニーを制した出来事は2018年5月で記憶にも新しく、日本産馬の偉業として大変話題になりました。

この勝利の功績は非常に大きく、日本の血統が競馬の母国であるイギリスの伝統のクラシックを制覇したことは、紛れもない快挙です。

また、世界最大級の馬産団体のクールモアの期待に応えて結果を出したことも、今後に向けて明るい兆しと言えます。

 

英2000ギニー後は好走止まりが続いていますが、秋以降に復活してくれることを期待したいと思います。

 

最後に紹介したいのは同じく2018年の仏ダービーを制したスタディオブマン(Study of Man)というディープ産駒。

馬主は以前にも登場したニアルコスファミリー。なお同馬は持ち込み馬としてアイルランドで誕生しました。

 

母はセカンドハピネス。凱旋門賞馬のバゴを配合するために一時期はノーザンファームに預託されていました。

祖母は説明不要の名牝のミエスク、つまり近親には名種牡馬のキングマンボやリアルスティールがいる血統です。

全兄のテイルオブライフ(Tale Of Life)もフランスで走っていましたが、気性が荒く活躍はできませんでした。

 

前哨戦のグレフュール賞を圧勝して2番人気で出走した今年の仏ダービーは、直線で馬群から力強く抜け出して勝利。

ディープインパクトは日本ダービーも産駒のワグネリアンが勝っており、「日仏ダービー制覇」と話題になりました

■今後の展望や見通し、注目すべき馬は?

先程紹介したサクソンウォリアー、スタディオブマン、ヨシダの3頭は今後の活躍が楽しみな現役競走馬です(2018年現在)。

他にもセプテンバー(September)という3歳牝馬の強豪が控えており、これからの活躍も期待できるでしょう。

オーストラリアでは日本から移籍した「元日本馬」と呼ばれる馬も多数走っていて、新天地で大活躍した馬もいます。

 

また、ディープインパクトには海外の有名馬主から続々と繁殖牝馬が送られており、これから誕生予定の仔馬も楽しみな存在です。

中でも、サクソンウォリアーの馬主であるクールモアは、自らが所有している一流の繁殖牝馬を次々に来日させています。

凱旋門賞馬のファウンド、欧州年度代表馬のマインディング、そしてメイビー……これらの大物牝馬が、実際に来日を果たしています。

 

サドラーズウェルズ系の種牡馬が多い欧州において、日本で流行している血統は取り入れやすく高く評価されています。

実際にサンデー系のサクソンウォリアーは種牡馬価値が高い一頭と言われており、引退後も期待されているようです。

サンデーサイレンス系、そして日本の血統が欧州で独自に発展していく可能性も充分にあるのではないかと思います。

 

サンデーサイレンスの登場を境に目覚ましい躍進を続け、世界に求められる存在となった日本競馬の血統。

世界に通用する種牡馬も現れて、血統を輸出する競馬先進国としての役割を担いつつあると言えます。

 

海外で本格的に広まり始めた日本の血統、これを機に海外競馬を見始めるのはいかがでしょうか。

 

 

長い文章となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

文・Hartley(@Hartley_026)

写真・Y.Noda