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奇跡を信じたエリザベス女王杯

「馬券だけで生活したい」「雑誌などで予想を取り上げてもらえるような存在になりたい」と考える競馬ファンは、意外と多いのではないだろうか。少なくとも一時期まで、僕はそうだった。しかし、「ある馬」の「あるレース」を見てその考えは変わることになる。

今回は僕にとって、そんな転機となったサラブレッドを紹介したいと思う。

 

その馬は、レーヴディソールだ。

 

 

 

◆新世代の芦毛の女王の予感

 

実を言うと、僕はデビュー前からレーヴディソールに期待していた。彼女の父は僕がいまだに「史上最強」と信じてやまないアグネスタキオン。母はジャパンカップにも来日したことがある名牝レーヴドスカーで、子供がOPや重賞でコンスタントに活躍し、名繁殖牝馬の地位を確立させつつある馬だった。

 

迎えたデビュー戦。

見た目はやや華奢で、芦毛という事もあって「強そう」というより「可愛らしい」という印象の馬だった。しかし、そんな見た目に反してレースでは「凄み」を発揮する。後方から、スローペースも短い直線もお構いなしとばかりに、大外を一気に差し切る豪快な競馬。最後の3Fのラップは12.5-11.5-11.4。加速ラップをいともたやすく差し切る彼女の姿に、僕の期待はさらに膨らんだ。

続くデイリー杯2歳Sでは、野路菊S2着のメイショウナルト、後にG1を2勝することになるグランプリボスなど強豪牡馬を相手にしながら、またしても大外から1頭違う競馬をしているかのようなレースで差し切り勝ち。

それを見た時、僕はこの馬が2歳女王になると確信した。

 

そして、阪神ジュベナイルフィリーズ。

ここもダンスファンタジア、アヴェンチュラ、ホエールキャプチャと言った強豪が揃っていたが、これまでのレースと同じように大外一気の末脚で完勝。まるで福永祐一騎手が「この馬は他の馬に邪魔されないように、しっかり大外を回ってくれば勝てるんだよ」と言っているように見えた。

 

僕は、ダイワスカーレットに続き、大好きなアグネスタキオン産駒から再び「歴史的名牝」が誕生したのではないかと心が躍った。

 

春初戦のチューリップ賞も鞍上の福永騎手に「こんなに楽に重賞を勝ったのは初めて」と言わしめるほど楽な手ごたえでの完勝。

僕だけでなく多くのファンが「今年の牝馬三冠はこの馬か」と思ったことだろう。

 

──しかし、好事魔多し。

桜花賞へ向けての調整中、レーヴディソールに骨折が判明する。

元々レーヴドスカーの子供たちは足元や体質面に不安を抱えた子が多く、その懸念が的中することになった。

 

半年以上の休養を余儀なくされることとなったレーヴディソール。その復帰初戦に選ばれたのが2011年のエリザベス女王杯だった。

エリザベス女王杯が行われる1週間。僕の予想のポイントはたった一つ。

「レーヴディソールを、どう扱うのか」

普通に考えると、3月以来8か月ぶりの実戦。さらには初の古馬相手、未知の距離となる2200m戦……不確定要素のオンパレードで、冷静に考えると「危険な人気馬」の典型例だったかもしれない。

しかし──。

もしその条件を乗り越えレーヴディソールが勝つことがあれば、それは「奇跡」と語り継がれ、歴史的名馬への新たなる第一歩となることは十分に予想できた。

そのレースで、万が一にでも僕がレーヴディソールを本命にしていなかったとしたら、僕は心からレーヴディソールを祝福できるだろうか?

僕はレーヴディソールを祝福しつつも心のどこかで「レーヴディソールを信じられなかった自分」を責め、もしかすると一生後悔するのではないか。

それがきっかけでレーヴディソールも競馬も嫌いになってしまうのではないか、と不安に襲われた。

そう考えると、答えは自ずと決まった。

僕の本命は、レーヴディソールだと。

 

レース当日はテレビでレースを見ていた。もちろん「奇跡の鑑賞料」として、レーヴディソールの単勝と、レーヴディソールから流した馬連の馬券を握りしめて。

 

レーヴディソールは3番人気。

前哨戦で大敗していたとはいえ、前年の3冠牝馬でその年のヴィクトリアマイルも制していたアパパネが4番人気だったことを考えると、レーヴディソールにかけられた期待度の高さがうかがえた。

もしかしたらそれは、みんなが「奇跡」を信じたかったからなのかもしれない。

 

ゲートが開くと、シンメイフジが果敢にハナを主張。

正面スタンド前から飛ばすと、2コーナーの頃には大逃げといえる形となる。

レーヴディソールは休み明けという事もあってか、いつもよりかかり気味に前のポジション取り。向こう正面の走りを見ても、何か気負いのようなものが感じられた。

 

3コーナーから4コーナーにかけてホエールキャプチャ・アパパネあたりが、逃げるシンメイフジを警戒して早めに前を捕らえに動き出す。レーヴディソールとしてもそろそろ捕らえに行きたいところだったのだが、福永祐一騎手が促しても反応は良くないようだった。

直線、レーヴディソールが伸びあぐねる横から、前年の覇者スノーフェアリーがコースの内目を強烈な末脚で突き抜けて二年連続で栄冠を手にした。

 

一方のレーヴディソールは11着。

僕の馬券も、紙くずと化した。

 

それでも不思議と僕の胸の内に後悔はなかった。レーヴディソールを信じることが出来たと思えたからだ。

それからの僕にとっての「馬券」は、好きな馬を買うにしても、儲かることを意識するにしても『外れても後悔しない馬券』という自分の思いを大切にして決めるようになった。それは必ずしも儲けることとは直結しないし、雑誌に載せることなんてできないような予想だろう。

でも、僕はおかげで「競馬を目一杯楽しむこと」が出来ていると思う。

それに気づかせてくれたレーヴディソールには、感謝しかない。

 

文・館山速人

写真・Horse Memorys

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