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[重賞回顧]第55回七夕賞(GⅢ)~ひと夏の経験を糧に~

2019年7月7日。

6年振りに七夕賞が七夕当日に行われた。年に1度、織姫と彦星が天の川の岸辺で出会うと伝わる七夕だが、梅雨の真っ只中にある福島競馬場の上空は鉛色の雲で埋め尽くされ、天の川はおろか、ベガ(織姫)もアルタイル(彦星)も望めそうになかった。それでも想像を超える豪雨や長雨に見舞われる地域を考えれば、雨がなかっただけでも良しとしなければならないか。

毎年の如くレースは混戦模様。新潟大賞典3着のロシュフォールが1番人気に支持され、春の福島でオープン特別2着のクレッシェンドラヴ、新潟大賞典でロシュフォールに先着したミッキースワロー、ウオッカの息子タニノフランケル、オープン惜敗が続くクリノヤマトノオーなど上位から下位まで力量接近、福島名物らしい難解なハンデGⅢだ。

 

スタート直後のスタンド前で迷わずいくのはマルターズアポジー。初角先頭を決して譲らないベテランは今日も武士沢友治騎手に導かれ、15頭を引き連れて1角に突入する。2番手タニノフランケルがマルターズアポジーを追い、3番手ロードヴァンドールと2角にかけて前の隊列は徐々に縦長になっていく。ブラックスピネルやストロングタイタンが続く流れは活気を感じさせる。ミッキースワローは下げて後方を走るスタイルはいつも通りではあったが、気持ち位置取りは前。なにより意図的に馬群の外、馬場がいい外目に持ち出されているようだ。そのさらに外をクレッシェンドラヴが走り、ロシュフォールは枠なりに最内を追走する。

 

前半1000m通過58秒0。11秒台前半を刻みながら、向正面後半から11秒後半にラップを落とす、マルターズアポジーが叩き出す定番ラップ構成だ。この遅くなったところで後続が早めに捕まえ出す。3、4角中間地点からタニノフランケル、ロードヴァンドール、ブラックスピネル、カフェブリッツらが外からマルターズアポジーに襲いかかり、インを回ってストロングタイタン、クリノヤマトノオーらが差を詰める。

これら先行集団から一歩遅れて仕掛けてきたのがミッキースワロー、クレッシェンドラヴだ。

福島のホームストレッチは300m弱。この短い直線までに二転三転するのが七夕賞である。決して単調な決着にならない。4角手前からバテ合い、凌ぎあいの攻防が続く。

後ろから仕掛けたミッキースワローがクレッシェンドラヴを引き離し、ロードヴァンドール、タニノフランケルらを飲み込むように先頭に立った。

残り200mで完全に先頭に立ったミッキースワローだが、さすがに脚はあがり気味だ。ラスト200mは13秒0。後続で脚を溜めた馬がいれば差しきられてもおかしくない。菊沢一樹騎手の必死のアクションは祈りのようだ。大外からクレッシェンドラヴがジワジワと差を詰め、インのロードヴァンドール、タニノフランケルらを交わして2番手からミッキースワローを追う。インの攻防からはロードヴァンドールが抜け出し3番手になり、そこにさらに後方にいたゴールドサーベラスが強襲する。

これらの攻防を尻目にミッキースワローは先頭でゴール。クレッシェンドラヴはそれに3/4馬身及ばず2着。3着はギリギリでロードヴァンドールが残した。勝ち時計は1分59秒6(やや重)。

 

■各馬短評

 

1着ミッキースワロー(3番人気)

3歳セントライト記念以来のふたつ目の重賞タイトルを奪取。誰より嬉しいのは菊沢一樹騎手にちがいない。待望の重賞初制覇ということだけでなく、ミッキースワローに3歳夏まで乗り、未勝利1勝クラス(旧500万下)を連勝、京都新聞杯5着、夏の福島いわき特別3着と惜敗を喫し、叔父横山典弘騎手に手綱を渡すことになってしまった。以後は一貫して横山典騎手が騎乗、競馬をじっくりじっくり教えこんだ。久々に菊沢騎手に戻ってきたミッキースワローは2年前のいわき特別でドン尻から競馬したときとは馬が変わっていた。徐々にレースの流れに乗れるようになり、このハイラップな前半でも後方馬群を引っ張る位置で競馬ができた。馬場のいい外目を走らせ、この馬の力を出し切った菊沢騎手の落ち着いたレース運びも加わっての完勝。人馬の成長を感じる夏の福島となった。

 

2着クレッシェンドラヴ(2番人気)

父ステイゴールド、母父サドラーズウェルズ、いかにも七夕賞向きの血統背景とハイペースの福島民報杯のレース内容が評価された形だった。前半置かれた分や4角手前でミッキースワローに一旦離された部分が響いての2着。それでも直線ではインの先行集団を力強く交わした。やはり七夕賞は力を出し切る最適な舞台だった。エンジンのかかりの遅い馬だけに全5勝中4勝をあげる内田博幸騎手とは手が合う。

 

3着ロードヴァンドール(12番人気)

阪神大賞典3着の異色ダイワメジャー産駒ステイヤーがそのスタミナと根性を発揮した。マルターズアポジーが作るハイペースからの持久力戦に引き出されたものだが、この流れを3番手から3着に残ったのはまだまだ十分通用するだけの力がある証だ。外から押し込められないように早めに仕掛けながらも外を回り過ぎないコーナーリングなど横山典弘騎手らしさが全開だった。

 

 

■総評

 

「ひと夏の経験」

 

それは若者の特権のような言葉だ。

淡く、切なく、楽しく、忘れえぬ思い出といえば、夏に限る。

ミッキースワローの主戦を外れた2年前の夏。そして、ミッキースワローに戻って一発回答を出した今年の夏。夏に傷つき、夏に歓喜した菊沢一樹騎手にとって忘れえぬ夏になっただろう。4着に最後突っ込んできたゴールドサーベラスに騎乗したのは同期の藤田菜七子騎手。こちらも福島でスウェーデンでこの夏、大活躍だ。ナツケイバは若い騎手たちが現状をぶち破ろうとする挑戦が似合う。その一方、2、3着に騎乗したのは内田博幸騎手、横山典弘騎手のベテラン勢。ミッキースワローを最後まで追い詰めたクレッシェンドラヴ、ゴールドサーベラスの急襲をしのいだロードヴァンドール。

若手の奮戦とベテランの意地、「ひと夏の経験」は若者のものかもしれないが、永遠の夏は終わらないベテランの青春でもある。

 

さあ、みんなの夏がはじまる。

 

文・勝木淳

写真・かぼす

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