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[平成名勝負]名優と名馬、復活の競演~1999年天皇賞(秋)・スペシャルウィーク、ステイゴールド~

 

1999年第120回天皇賞(秋)は語りつくせぬほど話題が多かった。

2冠馬セイウンスカイ、同期のダービー馬スペシャルウィークが秋緒戦の京都大賞典で大敗を喫しただけで、4番人気まで評価を落とすほどだった。

それもそのはず。

その京都大賞典を勝ったツルマルツヨシ、前年の天皇賞(春)の覇者メジロブライト、スペシャルウィークが宝塚記念で後塵を拝したグラスワンダーを安田記念で破ったエアジハード、毎日王冠でそのグラスワンダーに肉薄したメイショウオウドウなど多士済々の混戦状態だった。

しかし、ここであえて主役にしたいのが、アイツだ。

当日のアイツの馬柱はこうだった。

 

5月2日    天皇賞(春)6番人気0秒9差5着                                                   

5 月29日   金鯱賞   3番人気0秒2差3着   

6月20日    鳴尾記念    3番人気0秒1差3着

7月11日    宝塚記念  7番人気1秒6差3着

10月10日  京都大賞典 7番人気0秒7差6着

 

前年は天皇賞(春)、宝塚記念、天皇賞(秋)と2着を続けたが、この年は格下のレースでも3着という不甲斐なさ。

そのため、このレースでは12番人気と人気は急下降。

伏兵とすらみなされていなかった。

 

アイツはそんな評価を知ってか知らずか、この天皇賞(秋)で突如、復活し2着。

それも、あわや勝ったのでは、と思わせる2着だった。

 

 

アイツの名前は、ステイゴールド

のちに引退レースの香港ヴァーズで初GⅠタイトルを手にし、感動的なフィナーレを飾り、JRAから「愛さずにいられない」というキャッチコピーをつけられた稀代の名優である。

 

そんなドラマチックな展開をこの時点で知るものはひとりもいない。

 

ステイゴールドがこの豪華メンバーの揃った天皇賞(秋)で12番人気だったのは近走成績だけが原因ではない。

並みいるタイトルホルダーのなか、主な勝ち鞍・阿寒湖特別では見劣りするにもほどがあるだろう。

ステイゴールドは3歳(当時4歳)夏に1000万下特別を勝って以来、勝ち星をあげていない。

GⅠで善戦するも、GⅡGⅢでも善戦どまり。

なぜか勝てない。

どうしても勝てない。

当時のファンもその扱いに手を焼いた。

 

そして迎えた、1999年10月31日第120回天皇賞(秋)。

見事なまでの秋晴れのもと、レースをがはじまった。

 

レースは快速馬アンブラスモアが2番枠から好発を決め、迷わずハナに立つ。

外から同じく先行態勢をとるクリスザブレイヴ、サイレントハンター、キングヘイローらが魔の2角までにインに切れ込んでいく。

エアジハードとサイレントハンターの間に入るようにステイゴールドも好位にとりつくも、熊沢重文騎手はまだ手綱を押して促し気味。

どうにも前へ進まない。

セイウンスカイは枠入りを渋った影響なのか、中団に控える形になった。

そして、いつもセンスよくいい位置をとるスペシャルウィークに武豊騎手は思い切った後方待機策でエネルギーを溜めてさせている。

マークするのは河内洋騎手のメジロブライト。

 

アンブラスモアが飛ばすペースは1000m通過58秒0のハイペース。

追走するサイレントハンター、サクラナミキオー、クリスザブレイヴら先行集団も追いかけ、次第に厳しいレースになっていった。

ステイゴールドは3角手前でも明らかに追走に苦労しているかのように、熊沢騎手が促し続けている。

 

アンブラスモア、サクラナミキオー、サイレントハンターと続き、ステイゴールドは3角でインからキングヘイローの外へ進路を切り替えた。

外を追走することで、熊沢騎手の手応えがよくなったようだ。

このあたりも気難しさのあらわれだろう。

4角は大外を回りながらも勢いは先行集団より明らかに上だ。

 

直線でアンブラスモアが粘るところにスティンガーとエアジハードが差を詰めてくる。

リードを失うアンブラスモア。

エアジハードがスティンガーを競り落とし、抜けるところに外から熊沢騎手の左ムチに応えてステイゴールドがやってくる。

脚色は明らかにエアジハードを上回る。

しかし、熊沢騎手は左ムチを入れつつ、必死で右の手綱を押すというより張っている。

エアジハードを捕らえようかというところで、ステイゴールドはいつものクセを出したのだ。

 

抜け出すと、左に寄れるというクセ。

やがてナリタトップロードを落馬させ、左眼を深いブリンカーで覆う処置をされることになる悪癖。

引退レースではなぜか右に寄れ、名手武豊騎手をあわてさせるのだが、これも別の話。

 

とにかく抜け出すと左に寄れる、それがステイゴールドだった。

エアジハードを捕らえた刹那、熊沢騎手が矯正に必死になっているところへやってきたのは、直線まで溜め込んだエネルギーを一気に爆発させた武豊騎手とスペシャルウィークだった。

「なんとスペシャルウィーク!」ラジオたんぱ(当時)の宇野和男アナの叫び声。

ステイゴールドもまた、スペシャルウィークと同じくここでこっそり復活したのだ。

 

 

 

今振り返っても、

 

スタートからインにいる間は熊沢騎手に促され続け、

外に出した途端に手応えがよくなり、

直線では外から矢のように伸びながら、

エアジハードを交わすときには左に寄れるクセを出し、

ふわっとなって、

スペシャルウィークに屈する。

 

という、なんともステイゴールドらしいレース。

 

「愛さずにいられない」

稀代の名優はこののち、その馬生を通して、人々に競馬の奥深さとサラブレットの繊細さと難しさを伝え続けることになる。

文・勝木淳

写真・かず

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