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きっと明日も晴れるはず~アップトゥデイト~

 

彼はいつも、笑顔に囲まれていた。

彼の周りでは馬と人が、人と人が、堅い絆で結ばれていた。

そしてその愛らしい瞳に燃えるのは、決して諦めない闘志であった。

 

2015年、史上初の春秋・中山大障害連覇を成し遂げた名馬は、無尽蔵のスタミナと慎重な美しい飛越を武器に闘い抜いた。

 

彼の名は、アップトゥデイト

 

エイコーンパス、サナシオンとの激闘を制した2015中山大障害。陣営の、ファンの笑顔に囲まれる彼のその肩には、J-G1の優勝レイが掛けられていた。

それは精鋭たちを捩じ伏せ障害王者となった証である。偉業を成し遂げた彼の誇らしげな、そして同時にどこか愛らしいその姿に、

「おめでとう」「アップ可愛い!」

など、沢山のファンの声が飛び交った。

 

 

 

しかしアップトゥデイトは2016中山グランドジャンプを前に骨瘤を患い、休養に入る事となる。

勝利から遠ざかったおよそ1年9ヶ月の日々は、彼にとってももどかしい日々であっただろう。その走りに衰えは感じられない。しかし、勝てない……。

それでも彼は、ハナを切る積極的な競馬でレース展開を作るという進化を遂げていた。

 

そして、そんな彼を待っていたのが2017阪神ジャンプS、果敢な逃げでの「復活の勝利」である。

あの日、陣営の笑顔が、ウィナーズサークルに集まったファンの笑顔が、小雨の曇り空を青空に塗り変えていったように見えた。

 

 

勝利を諦めないアップトゥデイトと陣営。そしてファンは一体となり、彼を応援し続けた。

しかし、そんな彼の前に強敵が立ちはだかる。

障害レースの絶対王者となった、オジュウチョウサンである。

 

2017中山大障害。

アップトゥデイトは一周目のスタンド前でハナに立ち、およそ10馬身の大逃げを打った。軽快な走りに、飛越にファンが沸く。一方ライバルであるオジュウチョウサンは、大竹柵付近で4番手から2番手にポジションを上げ、機を伺っていた。

 

そしてオジュウチョウサンは最終障害手前で、アップトゥデイトとの差を詰めにかかった。

最終コーナーで実況アナウンサーが「前王者か、現王者か」とその声に力を込める。スタンドから、内馬場から大歓声が沸き起こる。

逃げるアップトゥデイト、追うオジュウチョウサン。まさに激闘の直線であった。そして残り100m、ライバルを差し切ったオジュウチョウサンに軍配が上がった。

 

「伝説のレース」

 

多くの競馬ファンが異口同音にそう呟いた名勝負は、これからも語り継がれるであろう。

 

 

しかしアップトゥデイトとて、オジュウチョウサンに負けてはいられない。2018阪神スプリングジャンプ、阪神ジャンプSを勝ち、ライバルへのリベンジを虎視眈々と狙っていた。

幾多の苦難を乗り越えてきたアップトゥデイトは、競走馬としての姿に別れを告げるその時まで、障害界を牽引する存在であり続けたのだ。

 

そして迎えた2018年の中山大障害、最終障害。

「アップトゥデイト、落馬」

の実況に、悲鳴にも似たどよめきが起きた。そこで目にした光景は、芦毛の馬体をターフに横たえた姿……彼が限界まで闘い抜いた厳しい現実であった。

転倒してもなお自らコースに戻り、再度転倒しても立ち上がり、ゴール板を駈け抜け、関係者の元へと戻っていく姿は、多くの感動を呼んだ。

外傷が、痛々しく観衆の目に映る。

 

それでもどうか命だけは……その祈りが通じ、胸をなでおろした事は記憶に新しい。アップトゥデイトは再起を目指すと報じられた。

 

 

季節は巡り2019年、夏。

「アップトゥデイト、引退」

彼を想った陣営の下した判断が報じられた。その報せを目にした時、幾多の勇姿と愛らしい姿が脳裏を過った。

「生きていてくれてありがとう」

そのような声を幾度か耳にした。命あるままの引退……それがいかに尊い事か、競馬ファンの胸には焼き付いている。

 

陣営とファンに深く愛された芦毛の障害王者にも、次のステージへ旅立つ時が訪れたのだ。

アップトゥデイトが勝利した2015年中山大障害の、2着馬エイコーンパスと3着馬サナシオンは、すでに馬術の舞台で活躍している。

彼らは自らの手で、輝く未来を掴み取っていたのだ。

 

そして当時の「障害三強対決」の勝者であるアップトゥデイトもまた、明日に向けての一歩を踏み出した。

 

 

 

2019年9月23日、彼が乗馬となった馬事公苑で「馬に親しむ日」のイベントが開催された。

そこで1つのサプライズが叶った。アップトゥデイトが登場したのだ。ファンたちに撫でられ、写真に収まり……出会った人たちを笑顔にする、その愛らしさも穏やかさも健在だ。

 

 

 

彼はいつも、笑顔に囲まれている。

彼の周りでは馬と人が、人と人が、堅い絆で結ばれている。

彼はこれからも、絆を紡いでいくであろう。

人々に笑顔、希望を与えるであろう……私はそう確信している。

なぜなら彼は「アップトゥデイト」。

障害界の太陽なのだから。

 

将来、人々が彼に託す夢がどのような形で叶うかはまだわからない。それでも彼に想いを寄せる人々の笑顔を、嬉し涙も悔し涙も見てきた私はいつかの夢を思うと目頭が熱くなる。

 

そして彼が夢を叶えた日は、笑顔で再会を果たしたい。

いつか流した、涙の分も。

 

障害界の太陽の前には、青空のごとき無限の未来が広がっている。

 

文・川井旭

写真・びくあろ、たちばなさとえ、わふー

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